寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』｜リアクション

寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』

〇恋人たちの丘

　寝子高２年の水上桜は、小学校以来の付き合いである友達の有沢茉奈と一緒にエノコロ岬を訪れた。
　大晦日には、エノコロ岬高台の土産物屋に『相手がいなくて出会いを求める場合は、自分のイニシャルと猫の絵を描くことで、良縁を呼んでくれる』という南京錠を買うのに付き合わされた。
　その効果が現れた気配はなく、花見の時にも１年間何もなかったと嘆いていたが。
「チッ、女つきばっかり……でも、恋人探しに来るいい男だっているわよね？」
　いい男と見れば目を輝かせる茉奈だが、場所柄カップルが多い。
「……少しは花も見たら？」
　花と緑の博覧会だというのに、彼氏ゲットに血道をあげる茉奈は、今日もブレずに花より男子である。
　海開きの時も初詣の時もお花見でもそんな調子で、成功したためしはないのに、懲りることがない。
「そこまで情熱を燃やせる茉奈が羨ましいわね」
　というか、情熱が空振りしまくっているのがなんか痛い気がする。
　さすがに本人には言えないが……
（別に置物みたいにしなくてもいいから、もう少し落ち着いたら、というか、余裕のある態度でいた方がいいんじゃない）
　と……言いそうになったけど、結局黙っておくことにした。
（今の暴走気味な茉菜が私の忠告を聞くとも思えないし……）

「あ、花を植えられるみたい！　まかぬ種は生えぬ、今度こそ恋の花を咲かすわよ！」
　茉菜が張り切り、それならば、と桜も一緒に花を植えることにする。
「スコップを借りられるみたいね。すみません、どんな球根がありますか？」
　と係の人に桜は尋ねた。
「はい、夏咲きですとアガパンサス、カラー、ベゴニア、グラジオラス、秋咲きだとクルクマ、ジンジャリリー、ダリア、トーチリリーなどがあります」
「同じ時期に植えても、咲く時期が違うのね」
　ちょっと人間に通ずるところがあるかもしれない、などと思いながら、フィーリングでこれはと思う花を選ぶことにした。
「あたしクルクマにする！　名前が面白いし」
　と茉菜が言い。
「私はダリアにしよう」

　と桜がダリアの球根を手に取るのだった。

「ここで花を植えたら彼氏できるかな？」
　茉菜が聞いてくる。
　内心呆れつつ、
「心がけ次第じゃない？」
　と答える桜だった。
「彼氏ができたら一緒にまた来よう。ダブルデートもいいかもね」
　茉菜の言葉に桜は思う。
（彼氏、かあ……）
　いずれ自分にもできるのだろうか。
　焦るつもりはないけれど、未来が見られるのならどんな相手か見てみたい。
（でも茉奈の彼氏と比べられたくはないな……）
　できたらできたで、めんどくさそうな気もする。