寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』｜リアクション

寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』

〇思いを乗せて

　土曜日。
　寝子高3年の鴻上彰尋は、最初に九夜山へ行って花畑スタンプラリーをすることにした。
「綺麗だな。いろんな花があるんだな」
　後で花言葉を調べてみよう、と写真を撮ったりしつつ、のんびり色んな花を楽しんでスタンプを集めた。
「おめでとうございます、お花のプレゼントです。どれがいいですか？」　
　ゴールの係の人に言われて、
「それじゃ、赤いチューリップをもらえますか」
　一輪のチューリップを手に九夜山を後にした。

「帰りに観覧車に乗って他のイベントの様子や花を見れるといいな」
　その足でシーサイドタウンへ向かう。
「普段と違って飾りつけもあるのかな？」
　よく見ればあちこちの看板にも花が飾られていたりする。
　夕暮れが近く、観覧車の前には待機列が伸びていた。
　そこに並びながら、彰尋は手に持つ赤いチューリップを眺める。
（花はよくあおいさんに贈って気持ちが伝わったらなんて思っていた時期があったなぁ……）
　七夜あおいに赤いチューリップを一輪渡したのは確か1年生のときのバレンタイン。
　花言葉はそのまま「愛の告白」。
（直接伝える勇気や自信がなくてただこの花を添える事しかできなかったけど）
　今のあおいとの関係はそこからほんの少し進んでいる。
　直接気持ちを伝えて返事を卒業まで待っている状態なのだ。
（もし今彼女にまたこの花を贈ることが出来たなら、どんな風に反応してくれるだろう）
　そんなことを思いながら目を上げると。

「……あおいさん？」
「彰尋くん？　こんにちは」
　幻ではないかと思うほどいいタイミングで、あおいがそこにいた。
「こんにちは……あの、よかったら一緒に観覧車に乗らないか」
「えっ？」
　一瞬驚いたように青い瞳が揺れる。
　けれどその表情はすぐに笑顔に変わった。
「うん」
　一拍おいて、あおいは元気に答えてくれた。
（よかった）
　やがて花で飾られたゴンドラが二人の前に進んで来る。
　目を見かわすと、あおいが先に乗り込み、彰尋が後に続いた。
　夕暮れの中、あちこちのイベント会場が赤、ピンク、黄、青、白、紫……とライトアップされ、それ自体が花のように見える。
「綺麗だね」
　景色を見ながらあおいが歓声を上げる。
（あの頃から気持ちは変わっていないけれど）
　景色に夢中になるあおいを愛おしく見守りながら、彰尋は思う。
（今の俺は、前よりも君の傍に近づけていたらいいな）