スイーツフェアに行こう｜リアクション

スイーツフェアに行こう

【こだわりのお店】

「あまり期待せずに待っててくれよ」
　八神修はペットの犬と猫たちの頭をなでて、家を出て来た。
　自分たちのぶんも買ってきて欲しいとじゃれてくる飼い犬と飼い猫たちに土産を買ってきてやりたいが、ペット用のスイーツが売っているかどうかはわからない。

　会場につくと、すぐに天野に見つかった。
「あれ、八神。スイーツ男子……ってやつかい？」
「逆巻はバイトか。俺はよく意外だと言われるんだが、勉強が一段落したときなんかは、けっこう甘い物が欲しくなるよな」
「僕は甘い物苦手だから。まあこれ、パンフレット。楽しんできて」
「動物でも食べられるようなものはあるかな」
　天野は修の持つパンフレットを一緒にのぞいた。
「ええと、たしか一店舗だけ入ってなかったっけ。ああ、ここ」
　天野が指さしたのは、会場の一番端にある店だった。
「ありがとう。あるもんなんだな、よかった」

　ペット用のスイーツを無事に手に入れて、自分が食べるお菓子をあれこれと買い始めた修の耳に、おかしな呼び込みの声が届いた。
『いらっしゃいカボ～！』
　見ると、フードコーナーの脇に、『マジカルハロウィーン』という季節外れな看板をぶらさげた店がある。
「季節を先取りしすぎだろう」
『最先端でヤンス～』
　ボイスチェンジャーでいじっているのだろう。キンキンとした声のジャックランタンが言う。
『寄っていくカボ、おいしいパンプキンスイーツカボよ～』
　試食があるというので、修はいくつか食べてみた。
「これはラズベリーのタルトか。どっしりしていて食べ応えがあるな」
『キャロットジュースもおすすめヤンス～』
　商品の色合いも、なかなかにハロウィンぽさが前面に出ている。
　店長がそもそもパンプキンヘッドをかぶって紫色のマントをしているのだから、怪しさも満点だ。
（しかし、どこかで会ったことがあるような……）
　修がそう感じるのも無理はない。
　実を言うとこの店長は、同じ星ヶ丘寮に住む旅鴉月詠なのだ。

　そこへ、イーリスと渚砂、圭花の三人がやって来た。
「やあやあ、楽しそうな店だな。修君もそう思わないか」
　どうやら知り合いらしく、渚砂が修に話しかける。
「ああ、奇遇だな。そうなんだ、お菓子を買おうと思ってな」
　圭花とイーリスも、並んでショーケースに目を向けた。
「あら、パンプキンプディングおいしそうね」
『おいしいカボ！』
「ブルーベリークリームのロールケーキをもらおうかな」
　イーリスが注文すると、ジャックランタンが喜んだ。
『ブルーベリーは目にもいいでヤンス。お客さん、お目が高いヤンス～』
「カボチャか－。きれいな色のお菓子になるんだな、なるほどなー」
　渚砂も感心した様子だ。
「日持ちしそうだから、俺はクッキーをもらおう」
　修が指さしたのは、カボチャの形のジンジャークッキーだ。
「へえ、形がかわいいな。どうやったらきれいな形になるんだ？」
　渚砂が店長に質問した。
『型を使うんでヤンス。型は自分で作ればいいカボ！』
「なるほど、手作りか。こだわりだなー」
『クッキーはお持ち帰りでヤンスね。ロールケーキはお召し上がりカボ？』
「そうだな。オレは自宅用だ」
　クッキーを受け取ると、修は次の店へと向かっていった。
「じゃあ、また」
「またなー」
　渚砂が愛想良く手を振る。
「フードコーナーも目の前にあることだし、休憩もかねて食べていこうか」
　イーリスの提案に、渚砂も賛同した。
「そろそろ持ちきれなくなってきたからな。ちょうどいいな」
　渚砂は少し前に購入した、シャルロット・オ・ポワールの箱をかざしてみせた。

「ただいま戻りました～！」
　『マジカルハロウィーン』に、お手伝いの魔法少女が戻ってきた。
　正確には、魔法少女のコスプレをしている、檜扇舞華だ。
「かわいいね」
　すれ違いざまに優しく微笑むイーリスの隣で、圭花がぼそっとつぶやいた。
「魔法少女ってハロウィン……かしら？」
　そんな突っ込みは気にもとめずに、舞華は空になったワゴンを見せた。
「試食がなくなったので、補充しに来ました～。あと、これお土産でーす」
　舞華は月詠に、あちこちの店で購入したお菓子を渡した。
「こっちはあたしたちが食べるぶんで、こっちは姉さんにお土産です」
「ありがとう。きりがいいから、少し休憩にしようかな」
　ありがたく月詠はお菓子を受け取った。
「どうぞ～！」

「さてと、私はここで失礼するわ。寮の皆にお土産を渡したいし」
　ここにいるとどんどん荷物が増えていくという圭花に、二人は笑顔で別れを告げた。
「そうか、気をつけて」
「おー、またなー！」

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