カバネガミ-1380-｜リアクション

カバネガミ-1380-

　八ノ隊には、悪魔がいた。
　刀と寝太郎が弐ノ隊を救助した数日後、かつて海浜公園があった場所で一つの戦いが起きていた。見回りをしていた八ノ隊と、異形が遭遇したのだ。
　異形の数が多かったこと、遭遇時は副隊長がいなかったことなどから序盤は押されていた隊員たちだったが、副隊長が到着するやいなや、形勢がみるみる変わっていった。
　なぜなら、その副隊長こそが悪魔だったからだ。
「ほら来い、もっと来い」
　彼は目の前の異形たちを挑発する。それに乗せられた異形が襲いかかると、彼は右腕を掲げた。それは人の形を成しておらず、まるで異形が手に取り憑いているかのようだった。腕が発光し、光が収まった時にはもう異形が消えていた。代わりに彼の右腕がモゾモゾと蠢いている。
「副隊長、相変わらずえげつないな……」
「しっ、聞こえるぞ」
　隊員たちが小声で話す。
　異形喰い。八ノ隊副隊長が持つ通り名であった。

　九ノ隊は、隠密部隊としての機能を果たしている。
　普段は隊員であることを明かさず、隊長と副隊長以外は隊員たちの顔も知らない。秘密裏に動くことが前提のため、名前もあえて色をコードネームにしている。
「黄色がいない？」
「3日前から連絡がつきません」
　隊長と副隊長が、そんな会話をしていた。
　素性は明かされず、行動も表だっては行われないため現在地が掴めないことはそこまで不思議なことではない。しかしだからこそ、所属する隊の隊長、副隊長にだけは安否を伝えておくのが常だった。
　それが3日も途絶えていることは異常な事態である。
「……赤と青を呼べ」
「はっ」
　副隊長が姿を消す。赤と青は隊員たちの中でも古株で、隊長も副隊長も信頼を置いている面子だ。程なくして黄色を見つけてくるだろう。しかしそれでもなお、隊長の胸に生まれた靄は消えなかった。
　隊長は空を見る。どんよりとした灰色だった。

　壱ノ隊は、選りすぐりの面々で構成されたエリート集団であった。元々の権威が異なるため、彼らだけは例外として見回りを行わない。
　それゆえ、他の隊と確執が起きることも少なくなかった。
　ある日、壱ノ隊が生活をしている拠点内で事件が起きた。
　隊員の一人が、何者かに殺害されたのだ。異形の犯行も可能性はゼロではなかったが、拠点に入り込み誰にも気付かれないよう隊員一人だけを殺すメリットが異形側には少ないため、内部の犯行ではないかという線が濃厚になった。
　壱ノ隊の威信が失墜した、とプライドを傷つけられた彼らは、犯人を捜すための捜査を開始していた。中には「今は人間同士で揉めている場合ではない」という意見もあったが、壱ノ隊の誇りがそれを許さなかった。

　壱ノ隊隊員殺し事件、そして弐の隊全滅、九ノ隊の隊員行方不明などここ最近の隊を取り巻く状況は悪化の一途だった。急ぎ対策を講じる必要があると判断した組織は、全隊長を集め、会議を行うことになった。当然、刀と寝太郎もそれに出席するよう指示があった。
「刀君、全員揃うのなんて久しぶりだねぇ」
「全員ちゃんと揃えばいいけどな」
　隊長たちを思い浮かべながら言う。善くも悪くも癖が強い面子だ。集まるかどうかも、集まったとして意思を統一できるかも分からない。
　それでも彼らは、この地獄からどうにか抜け出すべく、足掻き続ける。
　その足掻きすら、遙か高みから見下ろす神には滑稽な踊りに見えるのだろうか。

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