カバネガミ-1380-｜リアクション

カバネガミ-1380-

　それぞれの隊には、特色があった。
　たとえば刀の属する七ノ隊は、死にたがり——もとい、命の取り合いが好きな輩が多く自然と切り込み部隊としての役割が強くなった。
　隊長の刀自身も、己が危険を引き受けることでその分他が生き残れる可能性が上がることを是としている節がある。
「弐の隊は、先月隊長が重傷を負って、副隊長と僅かな隊員だけになってたねぇ」
「隊長不在なんだから、もう少し後方で……って言いたいんだがどこも人手不足、そしてこの様か」
　状況を話す寝太郎の言葉に、刀が返す。同時に彼は心の内で、こうも思っていた。
　ここ最近、流れが悪い方にしか行っていない。何かあるのではないだろうか、と。

　そんな彼の思考を遮ったのは、前方に見えた人影。弐の隊の副隊長だった。彼は両手両膝を地面につけ、今にも倒れそうな儚さを携えていた。
「おい、意識あるか？」
　駆け寄った刀が声をかけると、彼は僅かな力を振り絞って首を縦に振った。
「よし、そのまま踏ん張れ。他の奴は？」
　飲み物を飲ませながら、刀が問う。閉じかけた目と震えた唇で、彼がぽつりぽつりと話した。
　見回り中に異形から襲われたこと、残っていた隊員を守りつつ迎撃を続けたこと、異形を追い払った直後、突如隊員の一人からナイフで刺されたこと、その隊員が異形に唆されたこと。
　寝太郎と刀は、それらの話を何とも言えない表情でただ聞いていた。
「そうか、別にアンタが悪いわけじゃない。そして刺した奴も悪いわけじゃない」
　先に口を開いたのは、刀だった。
「神が、異形が悪いんだよ」
　それはただ単純に目の前の仲間を慰める言葉だったのか、自分たちが今地獄にいることへの諦めの言葉かは分からない。ただ、刀に抱きかかえられている彼は少し救われたような表情にも見えた。
「すぐに本部へ連れて行く、だからそれまで気をしっかり持て。死ぬなよ」
　刀がそう言った直後。周囲の気配を探っていた寝太郎が大声を上げた。
「刀君、ナニカ来る！」
　瞬間、寝太郎は自らの肩を二度叩く。それが引き金となり彼のろっこんが発動、寝具へと姿を変えた。
　彼らの背後から斬撃が飛んできたのはそのコンマ数秒後。何者かが放った刃の軌跡は、歪に空間を切り裂き、布団と化した寝太郎にまで届かせた。
　しかし血が跳ねることはなく、代わりに彼が変化した布団の素材である羽が花開くように宙に舞った。刃を向けた相手がその光景に、僅かな驚きを見せる。
「猫島ナイス！」
　それを刀は見逃さない。
　頭の中で撃鉄を落とすと、今度は刀のろっこんが発動した。精神と肉体の両方を加速させた刀は、圧倒的な速度で自身の武器——刀の切っ先を敵意の中心へと放つ。一連の行動が終わるまでの時間は極限まで圧縮され、彼の視界はスローモーションに映っていた。舞った羽が空中で静止しているかのような錯覚すら覚える。
　右腕を振った直後には、もう血飛沫が上がっていた。
　刀が斬りつけたもの、それは異形ではなく人間であった。
「普通の人間が斬撃を飛ばせるとは思えない……弐の隊の奴らか？」
　既に寝太郎と刀は数人に囲まれており、彼らは禍々しい気配と刃物を持って二人と対峙していた。目の焦点は合っておらず、刀の問いにも答える者はいなかった。
　斬られた布団から復元し、人の姿へと戻った寝太郎が呟く。
「刀君、この人たち……」
「ああ」
　恐らくは異形に殺された後操られているか、あるいは自分の意思では動けぬほど精神を侵されているのだろう。
　刀は、一つ呼吸をして告げた。
「なんでもいい、このノロマども。俺を殺したければ最低でも疾風の如く動け」
　もう一つ、息を吐く。同時に、強く足を踏み込んだ。それはたとえ同じ人間であっても、命を奪うことを躊躇しない決意の一歩でもあった。
「自分も手伝うよ」
　寝太郎が拳大の球を取り出す。
　人と人の戦いが始まった。神はどこかでこの戦いを見て、笑っているのだろうか。

このページにイラストを設定する