カバネガミ-1380-｜リアクション

カバネガミ-1380-

　変わり者の研究集団として知られているのが、四ノ隊だった。
　単純な肉弾戦、戦闘能力では他の隊が上ではあるが、隊で開発した様々な仕掛けを使い、カバネを罠にかけたり、討伐の補助をしたりといった任を受けているのだ。
「四ノ隊謹製、トリモチ玉！」
　これもその一種で、寝太郎が球体を投げつけると、敵に当たった瞬間、古代文字めいたものが描かれた光の帯がするすると現れ、敵の腕や脚に絡みついた。
　完全に動きを封殺する類いのものではなかったが、多少の自由を奪えれば充分だった。少なくとも、刀にとっては。
「はっ！」
　ろっこんによって加速した刀が、再び血の花を咲かせる。一人、そしてもう一人。
　前方とその奥にいた敵の首を斬ると、彼らは断末魔を上げることもなく倒れた。刀は即座に振り向き、残りの人数と配置、そしてどの順番で斬り倒すかを頭の中に描く。
　前方右に一人、左に一人。
　刀は三度肉体を加速させ、まず右の敵を下から上へ跳ね上げるように斬ると、宙で止めた切っ先をそのまま振り下ろし、接近してきた左側の敵の肩口へ刃を入れた。肉を切り裂く感触が手に伝わってくるが、気にせず刀は柄を握る手に力を込め、一気に胴体を切り裂く。
　返り血で一瞬視界が赤く染まった刀の耳に、寝太郎の声が届いた。
「刀君！　後ろ！」
　直後に聞こえたのは、おそらく寝太郎が投擲したであろうトリモチ玉の飛行音。投げられた方向から敵の位置を割り出し、刀は咄嗟に前方に転がることで背後からの斬撃を回避する。
　寝太郎のトリモチ玉は見事敵に命中し、光の帯が四肢を封じ込めていた。
「これが最後の一人か」
　刀は振り向くとその首に刃を当てて、横一文字を描こうとしたが、際の際で手を止めた。
「刀君？」
「情報が欲しい。こいつは生かして後から話を……」
　しかし言い終える前に、残った敵は糸が切れたように突然倒れてしまった。
「え……？」
　驚く寝太郎の横で、刀はある予測を立てた。
「もしかして、負けたら死ぬようになっているのか……？」
　だとしたら、こうまで人の命を弄ぶ神は相当性格が悪い。ただの玩具程度にしか考えていないのだろうか。刀と寝太郎は、悔しさを滲ませた。
　せめて、最期の瞬間に何かを発してくれれば。僅かな望みを持って倒れた敵に顔を寄せる。その時確かに、寝太郎と刀は聞いた。
「せ……先生……」
　それだけを言い残し、事切れる。
「まさか」
　静かさを取り戻した周辺とは反対に、刀の鼓動は戦っていた時よりも大きく波打っていた。同時に、彼の中で一つ一つの欠片が繋がっていく。やがてそれは、一つの答えを導き出した。
「あー、アンタか……」
　彼は、言葉にこそ出さなかったが何かを悟ったようだった。
「確かにアンタに説得されたら、転ぶ奴もいるか」
　おそらく、刀の中ではすべてが判明しつつあるのだろう。ここ最近の流れの悪さも、首謀者が誰なのかも。
　寝太郎はそんな刀を見て苦い表情を浮かべる。寝太郎が何かを語ることはなく、救急キットを取り出して副隊長の手当てをしていた。なにせ彼はまだ生きている。彼が後に語ってくれる情報は貴重なものだろうし、何よりこんな世界で味方は一人でも多くほしい。
「猫島、俺が詰所まで運ぼうか」
「大丈夫、せっかくなら少しでも休んでもらいたいからこうするよ」
　寝太郎は先ほど使ったろっこんをもう一度発動させ、自らの姿を布団へと変えた。となれば当然、その中に入るのは手当てを終えたばかりの弐ノ隊副隊長だ。
　彼のろっこんは進化能力により、自分の意思で飛ぶことができる。つまり、これだけで簡易的な担架のようなものになるということだ。
「……便利だよな、それ」
　ふよふよと浮遊しながら進む布団とそれに包まれる副隊長を見て、刀が呟いた。

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