異類恋愛譚｜リアクション

異類恋愛譚

　史越奈津樹。引きこもりを経て寝子高入学。現在芸術科２年。
　地味で内向的な奈津樹だが、学校生活は気の合う友人もでき面白い。が、華はない。キャッキャウフフなぞ微塵もない。
　と、思っていたのに。
　こんなさえない俺だけど、可愛い彼女が出来ました―――？！？

＊

　目の前に、それはそれは可愛い娘がいる。
　煌めく印象的な瞳。艶やかで可憐な唇。細身だが胸もお尻も魅力的なラインをしっかり描いており、スタイルも申し分ない。そこらのアイドルが裸足で逃げ出すレベルだ。ただ。
　よくよく見れば背中には翼膜のついた翼がパタパタと嬉しそうに動いていて。ミニスカートの下からは鱗のついた立派な尻尾がゆーらゆら。そして極めつけは頭には立派な角がにょっきり２本生えており。
　―――紛う事なきドラゴン娘。そんな娘が「一目惚れです！　付き合って！」何て言ってきた日には。
　貴方ならどうするだろう。まあ、少なくとも人間でない事に驚くに違いない。
　しかし、奈津樹の場合は。

「え、俺で本当にいいの！？　っていうか、その角とか羽とか本物！？　シッポもすげぇ！」
　奈津樹は目を輝かせてドラゴン娘に詰め寄った。
「シッポ、どうやって生えてるんだろう。知りたかったんだよね……」
　夢中になってミニの下を覗こうとする奈津樹をさりげなくかわしながら、ドラゴン娘はそれでもめげずに言った。
「ワタシ、カリーナっていうの！　ねぇ奈津樹、本当にワタシの言う事聞いてる？」
「うんうん聞いてる聞いてる！　ていうかカリーナ凄いね！　その翼も自分で動かせるんでしょう？」
「え、ええ」
「わー！　羽ばたかせてるとこ見たいー！　あ、スケッチ！　スケッチしなきゃ！」
　絵師スイッチが入ってしまった奈津樹は妙なテンションで、嬉々として鞄からスケッチブックを取り出した。
「はぁ～、持ち歩いていて本当に良かった！　カリーナ、まず後ろ姿から描かせて」
　そう言うと奈津樹はカリーナを強引にくるりと反転させ、さっさとスケッチを始めてしまった。
「えー、これじゃワタシ奈津樹の姿が見えないよー」
「大丈夫、俺見えてるから」
　……なかなかに酷い。しかし人外娘が目の前に現れテンションMAXの奈津樹は止まらない。
「いやさ、骨格も知りたいんだよね。服脱いでくれないかな？」
「えっ？！　せ、積極的なのは嬉しいけど、そーゆーのはもうちょっと後にしない？」
「後で見せてくれるんだね、ありがとう！」
　恥じらうカリーナに芸術家の目で頷き返す奈津樹。……最早カリーナに同情を禁じ得ない。
　しかし奈津樹はカリーナを置いてけぼりで突き進む。
「その服も体のラインが分かりやすくてスケッチしがいがあるんだけど、ドラゴン少女のメイド服なんかも見てみたいな。確かパソ部の部室にあったはずだから行こう！」
　黒ぶち眼鏡の奥の瞳をキラッキラに輝かせ、奈津樹はカリーナの手を取り歩き出した。
「奈津樹、手……！」
「ん、手？　あ、カリーナの手は普通の人間の手と変わらないんだね。鱗とかはここにはつかないんだ。なるほどなるほど」
　奈津樹はカリーナの白い手をしげしげと眺め、触れ、観察する。可哀想に、もうカリーナは真っ赤だ。
　そしてまた奈津樹は思い出してしまったのだ。
「そう！　絵を描くのに必要なシッポ！　どうなってるの？」
　ペラリ。奈津樹が尻尾を微妙に隠すミニスカートに手をかけた瞬間。
　―――バチーン！
　眼鏡が飛ぶ勢いでカリーナの平手が奈津樹の顔にヒットした。
「バカ！　奈津樹、もう知らないっ！」
　カリーナは見事な羽を広げると、バサリバサリと青空に飛んで行ってしまった。

（えーと……）
　一人取り残された奈津樹。ずれた眼鏡もそのままに呆然と考える。
（俺、フラれたのか……？　てかドラゴン娘なんてそもそも現実か……？　いや、夢かも。だって俺がモテるはずがないもんな……）
　ではこのじんじんと痛む頬は何なのか。
　夢でも何でも、逃した魚（ドラゴン？）は大きい気がする奈津樹であった。

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