らっかみ子供電話相談室！｜リアクション

らっかみ子供電話相談室！

　殺伐とした子供電話相談室に救いのメイドが！

「どーも、ネット声優マイカです」

　颯爽と録音ブースに駆け込むや、慣れた手つきで集音装置の前に立ち、ミキサー室にサインで指示を出す。
　咳払いひとつせず、マイクに向かって語りかける声は理知的で、しかも聞き手に寄り添うような温かみ、優しさを感じさせる熟達のものだ。

　檜扇舞華。
　メイドインコスプレボイスアクターの異名を取る彼女。
　普段はメイドとしての業務をこなして、その傍らで声優としても活躍。
　さらにさらにネコネコ動画を活用し、不定期生放送を配信中。
　喋りのプロフェッショナル、ＭＣとしてのトークの仕切り、コメンテーター、なんでもこなせる存在だ。

　動画配信。
　いまでこそ、ユーチューバーだの何だのともてはやされ、脚光を浴びることの多い職業だが、彼女はそれ以前から間断なく配信を続け、雑談・宣伝、情報交換、アニメ活動の報告などを行ってきた。
　近年の内容の薄い、ただ遊ぶ様子をだらだら流すような動画と違う、作り込んで充実したコンテンツを作り上げることに情熱を注いできた彼女。
　再生数にとらわれないクオリティをずっと追い求めてきた、努力の人である彼女にふさわしい放送は熱心な聴衆者が多く、変化の激しい動画配信の世界にあって安定した人気を誇ってきた。
　草分け的存在、といっても良いかもしれない。
　
「――リスナーから、回答してみなよ、とか言われまして」

　落ち着いてクールに告げる。
　だがその冷静さの底には、長年配信者として鍛えてきた彼女の、不羈の自負が燃えていた。

　迷える子羊の質問に、どんどん回答する。

　――いや。
　――なで切りにする。

檜扇舞華、推参！
質問、つかまつりませい！

「ためになる話―、略して『タメバナ』―」

質問：影が薄いって言われます。どうしたらいいでしょうか。

「挨拶から始めましょう。そして愛称を広めるのが効果的！」

　質問：オトナのオンナってゆわれるにわ、どぉしたらぃぃですかぁ？

「外見的なことなら品を磨きます。エロさではなく、色気！」

　質問：生中のおいしい飲み方を教えてほしいの。

「ジョッキをキンキンに冷やすといいですよ」

ババババババババ！

　片端から当るを幸いとバッタバッタと質問をなぎ倒していく舞華。
　録音ブース、ミキサー室、観客席から歓声があがる。
　切れ味抜群の彼女の回答。

　端的すぎる回答は、一見無愛想に見えるが、実はそこにも働く彼女の深謀遠慮。

　なんとなく文面から、質問者の概要は想像できる。
　特に今回の問題は、質問者はコイツだ！　と特定できてしまいそうなものばかり。
　しかしこの子供電話相談室は、あくまで匿名。あまり立ち入った回答をすべきではない。

　影が薄いという悩みは、おそらく質問者の人間存在に内在したもの。
　だとすれば、解決は不可能。
　ならばとりあえず「挨拶をする」という無難な回答が一番。

　実際問題「挨拶をする」という回答は、人生相談の回答としてかなり上位。
　挨拶、という当たり前の事を指摘することで、相手の意表を突く。
　さらに実際よく考えてみると、人間は挨拶が意外とできていないものだ。
　自分を反省し、そして今後の生活に生かしてみようとする。
　相談した側の立場からしたら、なにか受け取ったような気になる。
「挨拶をする」というのは、人生相談におけるワイルドカードなのだ。
　
　切り札を惜しげもなく切る、練達の解答者。

「オトナのオンナと言われたい」という質問は、子供から発せられるもの。
　だとすれば、此方は、どういったものがオトナか、という「オトナ性」を発揮しなければらない。
　舞華のオトナ性は「品」。クラシカルなメイドという彼女のキャラクターにふさわしい。ふさわしい故の説得力もある。見事なチョイス。

「生中の美味しい飲み方」も、ジョッキを冷やすという定番ながらに実行の難しい行為を推すことで、質問者のやる気の背中を押す。さらに近年流行りつつある、ジョッキタイプの缶ビールの話題にも話を繋げることができる。ＭＣとしての技倆も垣間見せる彼女。

　まったく進行せず、ぐだぐだの気分が溢れつつあった収録現場に、清涼な風が吹いた。
　解答者席に座っている寝子島の先生たちの中にも、なにか天啓にでも打たれたかのような表情をしているものがいる。
　いけるかも、このペースなら･･････。

　みなの心に、希望の光が宿る。

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らっかみ子供電話相談室！

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