【新入生歓迎会】情熱のイッサイガッサイ新歓祭｜リアクション

【新入生歓迎会】情熱のイッサイガッサイ新歓祭

　正門を人々が笑顔で通り抜ける。その状態を八神修はカメラに収めた。同じように人の流れに乗って活気のある場面を何枚も撮った。
　第一グラウンドでは各種の屋台が出揃い、買い求める姿が多く見られた。特に子供の笑顔が眩しく、最高の一枚となった。
　恵御納夏朝は屋台を見るでもなく、人で密集したところを選ぶように歩く。
「初ちゃん、どこ？」
　三人組の女子が夏朝の前を通り過ぎる。目が惹き付けられた。一人の髪型がツインテールだった。
　夏朝は笑顔で追い掛けて回り込むと、しょんぼりと肩を落とす。探している人物ではなかった。左手に嵌めていた橙色の布製猫パペット、ハルくんがむくりと起き出す。
　夏朝はハルくんに成り切って言った。
「かーさ、新歓祭が始まる前に約束しておけばよかったにゃ」
「パフォーマンスの用意と練習で時間が掛かっちゃって。初ちゃんに会えなかったんだよ」
「それで今日は早くに来て探しているのにゃ」
「そうなんだけど、見つからなくて。あとはどこを探せばいいのかな」
　ハルくんは左右に身体を動かした。何かを思い付いたのか。口をパカッと大きく開けた。
「南校舎の三階はどうかにゃ」
「そうだね。初ちゃんは教室にいるかも！」
　元気を取り戻した夏朝は笑顔で走り出した。
　二手に分かれた一方、恵御納夏夜は講堂にいた。膨らんだ紙袋を両手に提げて端を歩く。背中にはリュックサックを背負っていた。
　舞台裏に入ると周囲を見回す。一人の女子を見つけて進んで声を掛けた。
「スタッフの人かな？」
「そうです。何か困りごとですか」
「パフォーマンスの関係で、ここに必要な荷物を置かせて貰えないだろうか」
「大丈夫ですよ。ほら、他にも色々とありますので」
　改めて見ると細々とした物が隅に置かれていた。スコップと洗濯ばさみの使い道がわからず、夏夜は小首を傾げた。
「ありがとう。助かる」
　軽く頭を下げると一番奥に纏めて置いた。
「あと、もう一つ。登場の方法で相談したい。誰に話せばいいのだろう」
「それなら司会進行役になりますね。最後の打ち合わせがあるので一緒に来ますか？」
「お願いする」
　夏夜はほっとした表情で付いていった。
　程なくして生徒達の手で会場は完成した。来客席は後方に位置する。生徒会役員の席も作られた。
「今回は生徒会役員が集まってパフォーマンスを評価するんだって」
「そうなんだ。今年はどうなるんだろうね」
　会場の設営を手伝っていた二人組の女子は笑って自分のクラスに戻っていく。
「あ、ちょっと待って。甘い物が欲しくなっちゃった」
　引き返した一人が長机に向かう。
　幾つも繋ぎ合わせて巨大なテーブルと化していた。見合った量の軽食が犇めき、デザートや飲み物も用意されていた。調理を担当した巫部紫苑が傍らに立ち、紙コップのコンソメスープで喉を潤す。
「良い出来です。そこのクッキーも手作りで美味しいですよ」
「じゃあ、いただきます」
　女子は手近のクッキーを摘まんで口に入れた。途端に甘い笑みを浮かべる。
「手作りですから♪」
　目にした紫苑は目を細めた。
　講堂の出入り口の近くには簡易的な案内所が作られた。水上桜はパイプ椅子に座り、訪れる人々に長机の上のパンフレットを手渡す。
　書かれていない内容については口頭で丁寧に説明した。
「トイレは北校舎、南校舎が利用できます。部室棟にもありますが、混み合うことが予想されるのでお勧めできません」
「ありがとう。南校舎を利用するよ」
　片手を上げた青年はパンフレットを見ながら歩いていった。
「あの、小さな子供が喜ぶような屋台はありますか」
　妙齢の女性が聞いてきた。側には小さな女の子がいて、桜をじっと見つめる。
「綿菓子の屋台は屋内プールの側にあります。水風船や金魚すくいは南校舎に近いところになります」
「金魚すくい！」
　女の子の目が輝く。握っていた女性の手を頻りに引っ張る。
「いってみようね。ありがとうございました」
「また、わからないことがありましたら、ご利用ください」
　女性に手を引かれて女の子は第一グラウンドへ向かう。途中で振り返って桜に大きく手を振った。
「ばいばい」
　小声で微笑む。二人の姿が見えなくなると微かな溜息を吐いた。
「高速脱衣が、ね……」
　軽く頭を掻いたところに汗だくの男性が現れた。桜は笑顔となって対応に当たった。