ハッピーバースデー！　４月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　４月☆

☆２４日　感謝を込めて

　志鷹若菜は、寝子島総合病院に勤務する小児科医だ。
　喫茶店somnium（ソムニウム）の常連客で、やはり寝子島総合病院の救急医である双子の弟と共に、いつもこの店にお世話になっていた。
　店主の木原高明からはバレンタインにブラウニーの作り方のアドバイスを頂いたり、奥様の木原伊都子には悩みを相談したりしている。
　この島に来て出来た、大切な居場所の一つだった。
　ひょんなことから高明の誕生日を知り、思ったことがある。
（お誕生日のお祝いと、日頃の感謝を伝えたい）

　24日。この日は若菜は宅直（自宅や周辺で待機、呼び出しを受けたら勤務先に行かなくてはならない勤務形態）だった。
　残念ながら弟は通常勤務である。
　夕方、予約していた花束を花屋で受け取りsomniumへ向かった。
　シーサイドタウン駅から少し離れた、ちょっと裏路地のような、けれどもどこか洒落た雰囲気を持つ通りの一角にあるお店。
　色んな雑貨や、アクセサリー。それから店主夫婦が毎日心を込めて焼いている、焼き菓子やケーキの類を扱っている。
　からん、と古風なベルの鳴る扉を開けると。
「あら、いらっしゃい」
　いつものようにレジにいた奥様が声をかけてくれた。
「こんにちは」　
　若菜はいつものように、伊都子に笑顔でご挨拶する。
「あの、高明さんをお呼びいただいてもいいですか？」
　店内に目を走らせ、あまり忙しくなさそうのを確かめてから、若菜はそう切り出した。
「ええ、ちょっと待っててね」
　伊都子は笑顔で答えて奥に引っ込んでいき、すぐに店主の高明が姿を現した。
「いらっしゃい。どうしたのかな？」
　若菜は、柔らかな春色の花束を紙袋からそっと取り出し、差し出した。
　高明をイメージして作ってもらったものだ。
「高明さん、お誕生日おめでとうございます」
「えっ？！」　
　驚く高明にふわりと笑んで、若菜は言葉を続ける。
「いつも美味しいお食事をありがとうございます。私、お二人が温かく迎えてくださるこのお店が大好きです」
「……ありがとう。こんな素敵なものをもらっちゃっていいのかな」
　高明は照れたように笑った。
　若菜は思う。
　このお店で過ごす温かな時間と、お二人の笑顔に何度も救われてきた。
　初めてお店に入った時の安堵感は今も忘れない。
「もちろんです。それと、もう一つ」
　これからも夫婦で思い出を作ってもらえたら良いなという願いをこめて、若菜は弟と選んだもう一つの贈り物を差し出した。
「こちらは弟と私からのプレゼントです。たまには奥様とゆっくり身体を休めてくださいね」
　それは、鎌倉にある老舗旅館の宿泊券だった。
「あらあら、こんなものをいただくわけには……」
　高明は目を見開いて絶句し、奥から出てきた伊都子も慌てたが、結局二人は若菜と弟の思いを受け取ってくれた。

「こんないいものをいただいたんじゃ、フリーパス券を発行しなくちゃね」　
　お勧めのケーキとお茶を出してくれた高明は、嬉しそうに言うのだった。

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