猛進するは鉄の独楽、逃げるは孤独の少女｜リアクション

猛進するは鉄の独楽、逃げるは孤独の少女

「ああぁぁっ！　このおっぱいおばけっ！　なんで私の卵焼きを取りやがったのですよーっ！」
「ふんっ、早々に喰わぬ貴様が悪いのじゃ。早い者勝ちとは言うじゃろう」
「むぎぎぎ……好きなものは最後に取っておくのが私の流儀なのですぅーっ！」

　朝早く、寝子島市内のとあるアパートに騒がしい声が響いていた。
　チビナミとちーあが卵焼き戦争を勃発させていたのである。
　背丈も近く、年齢的には恐らく変わらないぐらいである二人は何かにつけて“仲良く”喧嘩していたのであった。

「はいはい、まだありますから喧嘩しないでくださいねー」
「あほくさ……あーうるさくてゲームに集中できないっての……」
「もう、イザナも朝食ぐらいしっかり食べなさい、そんなものじゃ栄養素取れませんよ？」
「……はぁ、おかんかっての」

　イザナは喧嘩するチビナミとちーあを横目に転がって携帯ゲームをしている。その口には棒状の総合栄養食スティック“うめえスティック”が咥えられていた。
　イザナにおかんと言われ、まだそんな年じゃないのにと少々落ち込みながら料理をしているのはイヴァである。エプロン姿が妙に似合っており、雰囲気はまさに若妻。
　ツクヨはというと、彼女はカタナと約束があるからと出かける準備として風呂に入っているようであった。
　慌ただしい朝の風景。チビナミというメンバーを加え、彼女達は必要最低限のサイズしかないちーあの拠点を引き払い、少々広めのアパートを八神の紹介で借りたのである。
　チビナミとちーあが互いの口の端を伸ばしながらにらみ合っている。その様子は見た目こそ違えどまさに仲のいい姉妹喧嘩にも見えた。

「むぅぎぃいっ、卵焼きをにゅすんだにょはぁ、このくちぃきゃぁあっ！」
「しりゃにゅと、いうておろうがぁあっ！　さっさと喰えば、よきゃろうにぃ！」

　こうして救われた少女はもう一人ではなくなった。
　慌ただしい仲間と、たまに訪れる寝子島の彼ら。その中で彼女は知っていく、人の温かさというものを。
　自分がここにいてもいいのだということを。

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