中の人など……ちぇんじ！｜リアクション

中の人など……ちぇんじ！

●ドキドキ！　気になるあの人と入れ替わり

　上穗木千鶴は、体の変調に違和感を感じた。
「あれ、目の前が明るい……何でこんなに高いところが見えるんだろう？　それに、胸がなんだか軽い気がする」
　いつも視界を遮っているはずの前髪がない。慌てて目を隠そうと下ろしてみれば、
「僕の前髪、短いし、金髪になってる？」
　その近くで八十八旗信彦も。
「いつの間にこんなに前髪が……？　なんだこの胸は？　重い！　なんか背が縮んでるし？！」
　現状を確認しようと胸を掴む信彦に、千鶴が慌てて駆け寄る。
「ちょ、ちょっと、僕の姿の君！　僕の胸を鷲掴みしないでくれたまえ！」
「そういう君は俺じゃないか？！　む、このボリュームは、ちーちゃん？」
「この声は……それにこのサングラス……ええ？　こ、この体は信彦くんの？」
　
　ようやく二人は事態を把握した。
「こりゃ困ったねえ。原因を探って元に戻りたいところだけど、授業をサボるわけにもいかないし」
　千鶴の姿の信彦は、言うほど困っている調子ではない。むしろ楽しそうだ。
「そんな……じゃあこのまま？」
「とりあえず、お互いの振りをして一日を過ごそうじゃないか。原因究明は放課後にしよう。なあに、大丈夫さっ！」
「ううう……勝手に胸に触ったりしないでくれたまえよ？」
「紳士の俺がレディにそんなことするわけないだろ？　おっと、姿はレディになってしまったが……」
「……だって、い、いつも、き、きみはぼくの胸を……」
「大丈夫さ、人前で自分の胸を揉んでたら変な人じゃないか。そんなことはしないさ」
「さっきやってたし……ひ、人前じゃなきゃいいのかい……頭が痛くなりそうだ、僕は姿が戻るまで保健室で過ごすよ」

　信彦は千鶴として１年７組へ、千鶴は信彦の姿で保健室へと向かっていった。
「やれやれ、しかしこの前髪は視界が悪すぎるよ」
　切ってしまうわけにもいかないし、と前髪をかき分けていた信彦は、廊下で雨寺凛に声をかけられた。
「千鶴ちゃんおはよー！　」
「おはよう！　凛ちゃんちょうどいいところに。ヘアピンを持ってたら貸してくれないかい？」
「え？　うん、いいけど？」
（千鶴ちゃん、なんかいつもと感じが違うような？）
　そう思いつつも快く凜はヘアピンを渡した。
　それを使い、信彦は視界を覆っていた前髪を上げて留めた。
　美しい青い目が露わになり、普段の千鶴より自由闊達な雰囲気になる。
「うわあ、千鶴ちゃんイメチェンだね、可愛いよ♪」
「ありがとう！　やっぱりこのほうが可愛い凜ちゃんの顔もよく見えるさっ」
「……どうしちゃったの、千鶴ちゃん？」
（おっと、口調に気をつけないと怪しまれてしまうな）
　信彦は、できるだけ千鶴のように振る舞わなくては、と反省する。
　が。
（あれ、でもちーちゃんって授業中はどんな感じなんだろう？　まあ、マジメっぽく振る舞っておけば間違いないかな？）

　一方保健室へ行った千鶴は。
「具合が悪いんですか？」
　保健委員に疑わしげに聞かれ戸惑っていた。
（いつもなら保健委員だし、何も言わなくてもベッドで休めるのに……）
　なんだか怪しまれている気がする。
（まさかいつものように服を脱いで寝るわけにもいかないし……それにこのままサボッたら、信彦くんの評価が悪くなる）
　仕方なく、信彦になりきって過ごそうと決意して１年２組の教室へ向かう千鶴だった。

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