新年度、九夜山ピクニック☆｜リアクション

新年度、九夜山ピクニック☆

〇アヒルボートの妄想

　３年体育科の羽生碧南は、三夜湖畔コースで新年度ピクニックに参加しました。
　仲のいい三人の友達と一緒です。
　普段から女子バスケ部で鍛えている碧南にとっては、この程度の山登りは軽い散歩気分。
　女三人寄れば姦しいということわざ通り、女子高生四人キャーキャーはしゃぎながら三夜湖に着きました。

（４月だから水は冷たそうだけど、夏になったらきっと気持ちいいんだろうな）
　などと思いつつ、湖畔を歩いていると、アヒルボートを見つけました。
「可愛い！　乗ろうよ」
　スマホで愛くるしいアヒルボートの写真を撮ったりしながら、碧南たちは賑やかにアヒルボートに乗り込みました。

　ボートの上でも女子高生たちの話は弾みます。
　周りの耳を気にしなくていい分、声を潜めずにコイバナをすることもできて。
「ねえねえ、クラス替えどうだった？　気になる人と一緒になったりとか？」
「えー、進展があったらここで女だけでボートに乗ったりしてないじゃない」
「夢がないわね、たとえばアヒルボートで二人きりになったらどうする、とかさあ」
　なんとなくそんな話の流れになったのですが、ここで碧南が思い切り反応しました。
「アヒルボートで彼氏と二人きり……ボートで二人きりなんて乙女ゲーではよくある話よね」
　ここ最近、女子バスケ部のキャプテンとしてハードな練習の日々を送る碧南は、大好きな乙女ゲーをプレイする時間がなくなっています。
　おかげで去年に買った何本かのゲームも積みゲーにしたままなのです。
「シチュエーションとしては、グループで遊びに来たけど、アヒルボートに乗ることになって誰と一緒に行くか選択肢がでるのよね。魅力的な相手は他にもいるけど、ベストエンディングを見るためには目移りしちゃダメ！　他の人は２巡目以降に取っておくのよ」
　碧南の瞳が輝きだしたのを見て、他の子たちはあ、しまった、という顔になりました。
　時すでに遅し、碧南はすっかり脳内妄想モードに突入しています。
「『風間先輩……素敵な景色ですね』『ああ、確かに美しいね……でもそれはきっと、君が一緒にいるからだよ……他の相手とじゃこんなに景色は輝かない』」
「……碧南？　もしもーし！」
「こうなると気が済むまでダメね」
　すっかり脳内妄想の世界にトリップして、イケメンキャラの名前を口にして、ゲームの中の台詞を諳んじてしまうという挙動不審ぶりに、友達はまたか、と頭を抱えました。
　数多くの乙女ゲーをプレイして鍛えられた碧南の妄想力は伊達ではないのでした。

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