幽霊屋敷のハイドアンドシーク｜リアクション

幽霊屋敷のハイドアンドシーク

●作られた禁域●
「ん～……ミ～ステリィ～♪　な雰囲気で良い感じだねぇ～……」
　幽霊探しから離れ、ふらふらと一階を歩き回っているのは夜榊水月。うぐいす張りの床が軋む音も、いつのものかも解らない彫刻の残骸も、実に『それらしい』雰囲気を纏って、冒険気分を盛り上げてくれる。
「……おんやぁ？」
　やがて廊下の端に到達すると、そこには小さめの階段があった。使用人達が使う為のもののようで、エントランスにあった階段に比べると明らかに質素だ。夜榊は一瞬考えた後、すぐさまその段に足をかける。案外しっかりと残っている階段を、危なげなくすいすいと上がって行く。
　そして一階に辿り着いた。
「……あれぇ？　今さっき、僕、上ってたよね～？」
　そう、確かに上っていた筈だったのに、今、自分は何故か階段を下りきろうとした姿勢で止まっている。もう一回、と再び上を目指す事幾許か――。
「おい、何やってんだあんた」
「何か……ありました、か？」
　館の探索をしていた鬼久保美桜と、何となく『見えていそう』な彼女が一人で何処かへ行こうとしているのを心配し、半ば勢いで随行していた本宮虎治が、楽しげに延々とループする階段を上り下り（夜榊からすれば上り続けているのだが）している夜榊を見つけた。何度目かのループを終えて廊下に下りて来ると、夜榊は機嫌良さげに笑む。
「それがねぇ、大発見！　ここから上、何度挑戦しても行けないんだよ～。無限ループって怖いね～」
「無限ループぅ？　……何かが、俺達が上がるのを邪魔してんのか？」
　怪訝な顔をした本宮だったが、夜榊の言わんとしている事を察すると、急に真面目に考え始める。鬼久保は、人形をぎゅっと抱えながら、二人に声を投げた。
「私なら……何か変わる、かも。だけど、ここから先起こる事、あまり、言い触らさないで欲しい、です。あと、驚かせると思うから、先に。ごめんなさい」
「うん？　何々、面白い事～？　だったら僕、黙って見てるよぉ～」
　そして鬼久保はそのまま、隅に座りこんで目を閉じる。――間もなく、力の抜けた腕から人形が転げ落ち。小刻みに震えたかと思うと、ゆっくり立ち上がった。驚く男子生徒二人をよそに、人形は一段、一段と階段を上がって行く。明かりの無い階段に人形の足音だけが暫く響いていたが、やがて、ばちん！　と大きな音がすると同時、鬼久保が跳ね起きた。上っていった筈の人形は、少し着衣の乱れた状態で廊下に転がっている。
「……これも、だめ…なんですね」
「よくは解んねーけど、今は二階以上には行けねぇみたいだな。つか、その、大丈夫かよ鬼久保」
「はい。平気です」
　淡々と答えつつ頷く鬼久保に、本宮はこっそりと安堵した後、探索は来た道を戻りながら続けようと提言する。各々それに賛同する声を上げて、一行はエントランスへ戻る道を歩き始めた。
　その背中を見詰める瞳があった事を、彼らはまだ知らずに居る。

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