魔界からの試練　――深海よりの導き手マモルソラ――｜リアクション

魔界からの試練　――深海よりの導き手マモルソラ――

（何故？　条件は満たしているはずなのに……？）
　だが、黒い靄は思考を勧めさせまいと襲い掛かる。装備が靄に触れただけでぼろりと崩れ、思わず息をのんだ。
「考えている場合じゃないよ！」
　都が次々に瓦礫を飛ばしながら叫び、スピカも考えるのを止める。

　同時におこる白い靄。土属性魔法『フォッグブレス』……敵の命中率を下げるものだ。それを咄嗟につかった着ぐるみさんは内心で呟く。
（余力、残していて正解だった）
　その魔法により靄の攻撃を免れた者達がいる。夜海霧楓である。彼は撤退できるよう、避難路を確保するべく動いていた。だが、それを読まれたのか、靄に襲われたのである。
「退路を作っていたのね？　手伝うわ！」
　真白もそこに加わり、風を纏った一撃と周りに追撃を添付する『チェイストリガー』を発動させる。楓の魔法に追撃が発生し、靄と泡を払って水面へ行く道を切り開く。
　その二人を援護しようと、碧南は武器を振るって庇う。靄は冒険者たちを逃がしたくないようだが、彼女を含め多くの冒険者たちとマモルソラの抵抗に攻めあぐねているようだった。
「っ、すまない！　……皆、撤退するぞ！！」
　魔法と風の力でどうにか確保した撤退ルートへと冒険者たちを案内する楓。一方、トワ・E・ライトフェロゥが元気いっぱいに叫んで得物を手にする。
「むむむ！　由々しきジタイという物ですっ！　突撃しまShow！」
「何言ってんだ！　逃げろよ！！」
　焦った楓が叫んでトワをひっつかみ、避難路へ投げやる。「まだやれます！」と叫ぶトワだったが、その手を取った真白が「今は逃げる時よ！」と諭して走っていく。そして、夢乃と拓哉、アシュリーがそれに続いた。
　仲間たち達が避難路へと走っていく中、靄は何が何でも夏朝だけでも喰らわんとしつこく迫る。だが、黙っている彼女ではない。
「これでも……！」
　金貨の雨が靄を襲い、その中をナイフが閃く。夏夜が必死に抵抗の一撃を見舞い、夏朝の手を引いて避難路を走る。追いすがる影へ、楓と碧南がさらなる攻撃を加えて追い払う。
「マモルソラ！」
　殿となった碧南が共に逃げよう、とを手伸ばし声をかけるも、彼は首を振った。楓は、何とも言えない悔しさをかみ殺し、碧南の手を取って走った。

　――お前たちが、混霊界だけじゃなく、お前たち自身の世界の最後の砦。

　マモルソラは、最後にそう言って避難路を閉ざした。
　すると、黒い靄はあきらめたのかしゅるしゅると引っ込めていく。その様子を見ながら、マモルソラが表情を険しくする。
（これは、恐らく……）
　彼は、すぐさま仲間に報告するべく姿を消した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

　冒険者たちが我に帰ると、そこはログインの際訪れる広場だった。傷を負った者は回復し、失ったHPもMPも、全快している。
　だが、黒い靄に触れられた部分は元に戻っておらず、アイテムを確認すると『浸食により中破』など書かれている。
　一番損傷がひどかったのは、味方を守り続けた二一の防具である。彼女は装備を外すと、それを愛しそうに抱きしめ「ありがとう」と呟いた。
「それにしても、こういう事って前にもあったん？」
「それは気になっているな……」
　今回は初参加である拓哉とアシュリーが疑問を出し、何度も参加した真白は首を振る。
「こんなことは、初めてだよ。でも、前々から不穏な動きがあるのは確か。SOCのプレイヤーキャラクターがどこかに攫われたり、とかあるし」
「これは、もう後戻りできないって事なのかもしれない」
　夏朝の言葉に、一同は思わず息をのんだ。

　一同はしばし話し合い、一度ログアウトすることに決めたのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

　――その夜。
　SOCを主催する会社から、全てのレイド参加者全員へ文字化けした謎のメールが送られた。だが、一部の者に送られた物だけが、文字化けした中にきちんと読める部分があった。

　もうすぐ、混霊界を超えて寝子島を食べますね　界喰らいのグラトニエル

（終）

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