【やっぱり猫が好き！】

　幸せって、な～んだろな？
　今回もぶわわわっとピンクのタイフーンが渦を巻いたもので、綾辻 綾花はふうむと考えました。
　桃色の風が吹くとなんらかの幸せが転がり込むというこの現象、目の当たりにするのは二度目です。前回はなんだか、恋する早川 珪先生とデートっぽいなりゆきになったり、恋人同士に間違えられちゃったり、嬉し恥ずかしであわわわわってなものでしたけれど。
　はてさて、今回は？
「……ふむっ」
　すこうし思案した後、綾花はきりりと眉を引き締め、この現象に再び直面するにあたって向かうべき場所を見定めました。
「とりあえず、図書室ですね！」



　まー図書委員のお仕事があるので、どっちみち訪れることにはなりましょうけれど、ともかくそこには珪先生もいらっしゃいます。
　ちょっぴりわくわく、表向きはあくまで平静を装いながら、いつものようにかららと図書室の扉を開きましたら、
「……はうわわわわ！？」
　思わずヘンな声が出ちゃうくらいには、室内には幸せがあふれまくっておりました。
「ああ良かった、綾辻さん！　待ってたんだよ。これ、どうすればいいと思う？」
　困った顔の珪先生も素敵できゅんときちゃいますけれどそれはさておき、にゃあ～ん。
　にゃお～ん。
　ふにゃにゃ～ん。
　寝子島でもよく見る日本猫から、スコティッシュ・フォールドにアメリカン・ショートヘア、ラグドールにメインクーン、ペルシャ、マンチカン、ソマリにラガマフィン……図書室を文字どおりに埋めて埋めて埋め尽くす、このにゃんこの海はどうしたことでしょう！
「けけけ珪先生、これは……？」
「いや、僕もよく分からないんだけどね。なんだかピンク色の風が吹いたなと思ったら、窓から廊下からどんどん猫が入ってきて……」
　神魂、グッジョブ！　綾花は心にガッツポーズをキメながら、ともかく手近なロシアンブルーを抱き上げるとふわわわわなんたるふもふも感！　いやいや心奪われている場合じゃあありません、にゃんこたちをちょっとごめんね、通してね、とかきわけかきわけ、珪先生の元へ。
　先生は事務机の前で椅子に座ったまま、膝に二匹、肩に一匹、腕にもう一匹を抱いた形で身動き取れずにいました。
　先生の困り眉にほんわかしつつも、司書教諭たる先生にはお仕事もありましょうし、にゃんこはこちらで引き受けることにします。
「こういう時には……ちょっとごめんね」
　ロシアンブルーをひょいとパソコンのモニタの上に乗っけてやって、カバンから取り出だしたる物は、じゃかじゃかじゃじゃん！
「こういう時には、これです！」
「おおっ、ねこじゃらし」
　ぴんっと立ったねこじゃらしをにゃんこたちめがけて、ふりふりふりふり。途端ににゃんこたちの目はキラリ、綾花のしなやかな手首の返しが生み出す絶妙なじゃらし具合にクギヅケです。
「ほーらほーらほーら。うりうりうり～。こうやってしばらく遊んであげれば、満足して帰ってくれると思いますよ」
「そっか、良かった。ありがとう。さすが、猫のことなら綾辻さんにおまかせだね……綾辻さん！？」
「ひゃああああ！」
　ずどどどどっと殺到したにゃんこたちにまみれて、あっという間に猫団子状態！
「だ、大丈夫かい？」
「あははははは！」
　ぶわぶわぶわわ！　ピンクの風も吹き荒れて、もふもふにゃんこまみれ！
　走るペンに猫メモも大充実っぷりで、思いっきり楽しんじゃう綾花でした。




　さてさて、桃色ハリケーンは去ることなくぶわりぶわわんと渦を巻いております。
　つまり綾花の幸せな出来事は、まだまだ終わりじゃあありませんでした。
「あの、珪先生？　これは……」
「ごめん。頼めるのが綾辻さんくらいしかいなくてさ」
　にゃんこフィーバーの興奮冷めやらぬうち、仕事終わりの珪先生に誘われて、なにやらやってきましたのは、
「ここは……何屋さんですか？」
「雑貨屋さん。僕の友人が最近始めたお店でね。猫グッズの専門店なんだって」
　猫グッズ専門店！　魅惑の響きに、綾花の心の猫耳もピンと立ちました。
「で、まあ……友だちのよしみで、宣伝に協力してくれないかって」
「ああ！　それでこの格好なんですね」
「うん、僕ともうひとり、女の子も欲しいって言うからさ」
　珪先生、黒猫の着ぐるみをもっふり着こなしふにゃ～ん☆
　綾花も白猫着ぐるみで、もふもふにゃお～ん♪
　つまりはこれを着て、キャットロードに新規オープンな猫グッズ店を宣伝してほしい、ってなお願いなのでした。
「着せといてなんだけど、頼めるかい？　僕も断り切れなくてさ。バイト代……はちょっと出せないけど、なにか美味しいものでもおごるから」
　なんて猫ぐるみ珪先生に頼まれたなら、そりゃあもう。
　ぶわ、ぶわわわ！　ピンクの風も竜巻めいて吹き荒れようというものです。
「はいっ、頑張ります！」
「うん、ありがとう。いっしょに頑張ろう。店主には、綾辻さんに猫グッズの割引もしてくれるように頼んでおくよ」
　にゃんにゃかふにゃんと猫っぽく鳴いたりするノリノリな白猫綾花、ちょっぴり照れも残る新鮮な珪先生の黒猫姿。
　気づけば仲間だとでも思ったか、野良猫たちまでやってきて、にゃあにゃあなおう！
「ふふふ。しあわせ～♪」
「はは。こういうのもたまには悪くないね」
　二匹の猫は仲良くにゃうん。新規開店のお店はその可愛らしさにつられてやってきたお客でたちまちいっぱいになり、そこらじゅうで笑顔が咲いて、ピンクの風もひっきりなしに吹き荒れたということです。