【新年度】ドキドキ、成長への第一歩｜リアクション

【新年度】ドキドキ、成長への第一歩

●心機一転

　今日は、寝子島中学校の入学式です。

「あたし、今日から中学生だもん」
　新しい制服に身を包んだ佐藤瀬莉は鏡を見て、ちょっぴり大人になった自分の姿を見てはしゃいでいます。
　瀬莉は、幼い頃からお洒落な子でした。
　投資ファンド代表で有数の資産家の父、フラワーコーディネーターの母の間に生まれた一人娘のためか大切に育てられました。
　フリルのついたブラウスや大きなリボン。
　ちょっとしたアクセサリといったファションのセンスは、母譲りだったりします。
　小学生の頃は、女の子らしい可愛い私服で登校していたので、毎日何を着ていこうかと迷ったりしました。
　中学生になったら、レトロでシンプルなセーラー服を着て、毎日登校することになります。
　小学校では自分好みの私服だったのですが、今日からは中学生。
　制服を着て学校に通うことになるので、ちょっと不思議な気分だったりします。
　一見、楽そうに見える制服ですが母に言わせると、こういうシンプルな服装が実は一番誤魔化しが効かないとのこと。
　なので、かえって気を遣うことになる、とのこと。
「シンプルな服ほど、アレンジが難しいんだね」
　今のところは大人しく制服を着ているだけですが、鏡を見たら、あれをこうして、と色々とアレンジが思い浮かびました。

　どういうふうにアレンジしようかな？　というようなことを思っていたら中学校に着いていました。
（早っ！）
　中学校の前に着くなり驚いた様子の瀬莉を見て、母は緊張しているのだろうと思いクスリと笑いました。

　入学式に来るのは母だけかと思っていましたが、父と、東京から祖父母がやってきました。
　瀬莉は幼い頃は病弱で何度も入院を繰り返していたので、幼稚園には行けませんでした。
　3歳の頃に、余命１年程と医師から宣告されましたが、今はほぼ回復し、元気に過ごせるようになりました。
　余命宣告をされた両親と祖父母は衝撃を受けましたが、瀬莉が無事成長し、中学生になったことをとても喜びました。
　真新しい制服に身を包む娘を見て、父は微笑んでいたので、嬉しいんだろうと思いました。
　病気のことで心配かけさせたこともあり、瀬莉には両親と祖父母の気持ちは、痛いほどよくわかりました。

　瀬莉には、時計職人になるという夢があります。
　手先が器用で懐中時計いじりが趣味というのもありますが、そうなりたいと強く願ったのは、入院していた病院で機械いじりが大好きな少年と出会ったからでした。
　一緒に時計の博物館へ遊びに行こうと約束した少年は、成長することは叶いませんでした。
　その分、瀬莉は大人になり時計職人になる。時計の博物館に行く、と決意しました。
（あたし、頑張る。だから、天国から見守っていてね……）
　青空を見上げ、あの頃に出会い、別れた少年に呟きました。

　入学式が終わると、家族揃って学校前で写真を撮りました。
　瀬莉を中心に。右隣りには緊張しているのか、ぎこちなく微笑む父。
　左隣には、優しく見守るように微笑む母。
　父の隣には、孫の成長を素直に喜ぶ祖父。母の隣には、満面な笑顔の瀬莉を見て涙ぐむ祖母が写っています。
　大切な家族との記念写真は、懐中時計と同じく、瀬莉の大切な宝物です。

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