鬼が嗤いて鴉なく夜｜リアクション

鬼が嗤いて鴉なく夜

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「来膳、だ」
　そう呟いたきり、山羊鬼は動かなくなった。死体は影のように溶け、黒々とした染みだけが地面に残された。
　強敵の最期の言葉を、口の中でサキリは反芻する。
「――来膳。君の名は、確かに記憶に刻んでおくよ」
　肩を貸したまま、修は呟く。
「……残ったのは大斧だけ、か。何かわかればいいんだが」
　鉄塊と化した斧を拾い上げようとしていると、森の向こうから二人を呼ぶ声がした。
　森の向こうから、鸞先生が駆け寄ってくる。動けるようになったらしい。
「二人とも、だいじょうぉ……ぶじゃないですわねぇ！？」
　目をまんまるに見開く先生。無理もない。修は鼻血で顔の下半分が真っ赤だし、サキリは全身ボロボロだ。
　修が持ってきていたキットで簡単な処置をしながら、鸞先生は二人に言った。
「今も全然事情はつかめていないのですけどぉ……二人が助けてくださったのよねぇ？」
「勝てたのは先生のおかげですよ」
　だからこちらが感謝をしたいくらいだと修が言うと、鸞先生は流石に首を横に振った。
「私が助けてもらったんだから、感謝するのは私の方ですわぁ！　だから、何かお礼を……ね？」
　おずおずとした先生の様子に、顔の血を拭いながら修はくすりと微笑する。
「今度近くのスイーツ店で、苺フェアがあるんです。それでどうですか？」
　先生のろっこんが勝因である以上、一方的にお礼をされるのもなんとなく承服できかねる。なので、先生も楽しめるようなものを提案することにした。
　先生の目が、気持ち輝いたように思う。
「サキリ君もそれで大丈夫かしらぁ？」
「もちろんです。甘い物は好きですから」
　
　苺フェアを三人がどんな風に過ごしたのかは、また別の話。

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