過ぎた冬の名残のような、時期外れの雪が降る夜だった。
寝子島神社の境内の森に、一つの影があった。
青黒い顔で般若のような形相に、丸く捻れた二本の角。
山羊のような角をした鬼が、木陰に横たえられた一人の女性――
四十九院 鸞を見つめていた。
「ふん。お前までこんな姿になって、人に紛れて生きているとは。滑稽滑稽」
山羊鬼が、手近な木に突き立てていた大斧を引き抜く。
以前この場所で暴れた際、人間どもに破壊された金棒。その代わりとして何処からか見繕ってきた新たな武器だ。
十手のような見た目で小さかった金棒より、見た目はよほど鬼らしく、手にした姿は地獄の獄卒の如く。
無造作に、大斧を薙ぎ払う。
鸞が横たわる木の幹に、斧の刃が深々と食い込んだ。
その跡と己の腕を見比べ、山羊鬼は嘲るように呟く。
「やはり、あの日ほどの力は出せんか。我が事ながら、無様無様」
節分祭りの日とは、"鬼の存在が許される"日だった。豆をぶつけられ、追い払われる存在だとしても、人々が鬼の存在を無意識に許す日だった。
だから山羊鬼は力を存分に振るうことができたし、だからあの日に謀り事を実行に移した。
そうして、路傍の石にも例えた人間に遅れを取った。
石ころが重なって、集まって、鬼を躓かせた。
そして一刀、確かに届かせた。
単なる油断から来た失態だけではない。十全に力を振るう鬼に対して、届かせるまで積み重ねるだけの知恵を力を、人間たちは持っていた。
道端の石ころなどではなかったのだ。
故に鬼は振り返り、嗤う。
「お前の首を、割って潰して叩き落とす。専心専心」
◆
虫の知らせというにはあまりにも剣呑な、無数の針で突かれるような予感があった。
それに突き動かされるままに、
サキリ・デイジーカッターは寝子島神社を訪れていた社。
神社へ近づくごとに強まる予感は、境内に足を踏み入れた時に最高潮に達する。
ほとんど無意識に抜いていたダマスカスブレードが、時期外れの雪灯りを受けて煌めく。
予感の源が見つかるのに、そう時間はかからなかった。
地面に横たえられた鸞先生と、大斧を手に見下ろす一匹の鬼。
伝奇もののワンシーンのような場面が、サキリを取り込んで動き始める。
「お前の首を、割って潰して叩き落とす。専心専心」
振り返った鬼が嗤う。
脅しや威嚇などとは違う、淡々とした「当然そうする」という意思表明。
喉元に刃を突きつけられるような緊張感が、肌を痺れさせる。
「……サキリ、君……?」
微かな声が聞こえた。
横たえられていた鸞先生が、目を覚まそうとしていた。
「……先生、少し待っててください」
緊張感を断ち切るように、サキリはダマスカスブレードを構える。
「返してもらうぞ」
寝子島の夜に、鬼と刃が交錯する。
サキリ・デイジーカッターさん、この度はリクエストありがとうございました!
というわけでハローワールド、風雅です。
プライベートシナリオのお届けとなります。
シナリオ概要
というわけで、節分シナリオに登場した山羊鬼との決戦を行うシナリオとなります。
今度の山羊鬼は四十九院 鸞先生をさらい、悪事を企んでいる様子。
四十九院先生を救出し、山羊鬼との決着をつけましょう。
また今回のプライベートシナリオは、飛び入り参加の枠が設定されておりますので、
自分も山羊鬼と戦いたい!という方はぜひともご参加頂けますと幸いです。
というわけで、決着つけましょう。
山羊鬼についてのおさらいは、こちらのシナリオガイドからどうぞ。
山羊鬼について
節分シナリオにて撃退された山羊鬼その人です。
前回負った負傷はほとんど治癒している他、破壊された金棒に代わって大斧を装備しています。
また、「鬼の存在が認められる日」であった節分を過ぎてしまったことで、身体能力は節分シナリオ時点よりも低下しています。
一方で今回の山羊鬼は驕りや油断を捨て去っており、最初から殺害するつもりで襲いかかってきます。
このため動きはむしろ鋭くなっており、総合的な脅威度は節分シナリオと変わらない、または上回っていると考えて頂いた方が良いでしょう。
節分の時になかった要素を如何に利用するか、それが勝利の鍵を握ります。
四十九院 鸞先生について
今回のシナリオの「囚われのお姫様」ポジションです。
怪我などはしていないため、その点の心配は無用です。
また金棒がないせいか、節分の時に捉えられた人々のように木々の中に閉じ込められてはいませんでした。
山羊鬼の目的を挫くだけなら、「彼女を連れて逃げ出す」という選択肢もなしではありませんが、
本気の山羊鬼の目をかいくぐって奪還し、そのまま逃げおおすのは極めて難しいことは言うまでもありません。