【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　今日はいい天気。好天快晴とてもいい。
　にゃんこめぐりにぴったりだと思う。
　よし決めた。
　ノート大の猫メモと煮干し、それと猫缶を鞄に入れて、綾辻綾花は近くの公園へと出かけた。
　道沿いには桜が満開だから、お花見も同時に味わえるというわけだ。

　公園に着くと周囲を見回し、猫缶を力強く開ける。ぱきっ、と音が立つ。
　この音は、耳ざといにゃんこには絶好のアピールとなる。
　あっ、にゃんこ見つけた。
　さっそく茂みから一匹が顔を出した。茶トラ猫の男の子、何度か出会って友達になった子だ。
　相知った仲だから気安い。茶トラは早足で綾花のもとにやってきた。はやくくれ、と言わんばかりに見上げてくる。
「はいこんにちは、どうぞどうぞ」
　しゃがみこんで缶を置くと、くんくんと一度匂いを嗅いでから茶トラはもしゃもしゃ食べはじめた。
　あれ、警戒した？　猫缶は好みのはずだけどなあ。
　猫メモをぱらぱらめくり同じ猫のページを開いて調べる。
　あ、そうだ。前もその前もカツオ味の猫缶をあげたんだった。
　今日はマグロ味、「匂いが違うぞ？」というメッセージだったというわけだ。さすがにゃんこさん、鼻がいい。とはいえマグロも気に入ったようで、茶トラは夢中で味わっている。
　前会ったときと変わっているところをチェックする。少し体が大きくなった。健康そう。病気はしてないみたい。でも前脚にひっかき傷があった。他の子とケンカしたのかな。メモにいちいち記していった。
「さて煮干しが好きな子は……誰だったかなあ？」
　聞こえるように言いながら煮干しをビニール袋から出すと、待ってましたとばかりにやってきたにゃんこがいた。中型の三毛猫、もちろんノラ。こちらも顔なじみさんだ。
「元気だった？」
　呼びかけるとニャアと返事をくれた。この三毛猫さんはいつも愛想がいい。
　二匹が行ってしまうと入れかわるように、また一匹やってきた。
　初めて見るにゃんこ、猫メモに追加しなくちゃ。
　黒い毛並みに白いブチ、このブチが角度によって、白い桜の形に見える。
「煮干し食べる？」
　綾花は鞄に手を入れたがその動作が良くなかったのか、猫は警戒して転身、ぱっと逃げ出した。
「待って！」
　慌てて追いかける。せっかく知り合えるチャンスなのに。
　公園から出たものの、白ブチさんは姿をくらませている。
「ああ、もう……」
　うろうろと探していると、
『どうした？』
　高い位置から声をかけられた。ブロック塀のうえから綾花を見おろしている。毛並みは二色でグレーと白、中央からきれいにわかれたハチワレにゃんこ、テオことテオドロス・バルツァだった。
「テオちゃん♪」
　綾花は目を輝かせ両腕をのばすが、期待に反してテオは飛びこんでくることなく後じさった。
『なんだよ、さわるな』
「どうして？　もふもふさせてくださいよー」
『お前のもふもふは荒っぽいからイヤだ』
「もう、照れなくってもいいのに。ママみたいに甘えてくれていいのよ？」
『ママに甘える歳じゃねぇ！』
「またまたぁ♪」
　それより、とテオはうなるように言った。
『なんかオロオロしてたがどうした』
「あら親切ねテオちゃん、おりこう」
『俺がお利口さんであってたまるかってんだ。とにかく話してみろ』
　白ブチのことを綾花は尋ねた。模様などの詳細を含めて。しかしテオは首をかしげるだけだった。
『この付近か……知らんなあ。新入りかもしれん』
　綾花は肩を落とすが、それでもテオと会えたことは嬉しい。
「テオ、お腹空かない？」
　猫缶食べつつお花見なんてどうかなと提案する。
　ふん、と前脚をそろえてテオは鼻を鳴らした。
『花見には興味ねえが、猫缶ならもらってやってもいいな』
　花より団子、いや花より猫缶というのがテオらしい。もしかしたらお花見という言葉に気恥ずかしさをおぼえているだけかもしれないけれど。
「じゃあ桜柄にゃんこを探しながら座れる場所を探しましょう。だっこして運んであげようか？」
『いらんいらんっ！　歩けるわ』
「また照れ隠しー」
『ちがうっつーの！』
　抗議は口にすれど、ちゃんとテオは同行してくれた。