三月イチゴのお茶会｜リアクション

三月イチゴのお茶会

☆アイオとあいお

　九夜イチゴ農園は、朝から大勢のお客で賑わっていた。

　双子のようによく似たアイオ・キャンドライトと喜矢武あいおは、イチゴを食べながら、同時におしゃべりに夢中になっていた。
「この前の決戦も終わって、やっとネコジマでゆっくりできますわ」
　うっすら灰色の白い縦ロールの髪と青い目は同じだが、キャスケット帽をかぶり前髪ぱっつんのほうのアイオが言った。
「あいおちゃんにはアイオが住んでいた猫鳴館の部屋とカプセルギアを引き継いでもらって、これからが楽しみですわね」
　ほしびとのアイオは寝子高生ではなかったので、猫鳴館には勝手に住んでいたのだが。
　ツインテールのあいおが答える。
「もぐもぐ。来月はいよいよ入学式。姉さんの分まで高校生活を楽しむ、それが目標です」
　アイオから分離して生まれたあいおは、ほしびとの時の記憶を持っているが、分離後は「ひと」として以前からいたことになっている。
　白いイチゴを頬張ったあおいは嬉しそうに声を上げた。
「わぁっ！　こっちの白い品種のイチゴもおいしい！」
「そうですの？　それじゃアイオも食べてみましょうか」
「……それで喜矢武あいおの名前が寝子高中で知られるぐらいの有名人になってみせますよぉ！　もぐもぐ」
「さっきからあいおちゃん……さすがに口に入れたまま喋ったらお行儀悪いですわ」
　お姉さんっぽくたしなめたアイオだが、目を細めてフォローする。
「でも、食べられるだけ食べておきたいのもわかりますわ。こっちだとヒンシュカイリョウが進んでこんなにおいしいイチゴがたくさん生産できるとか」
　星幽塔のイチゴは自然に生えているものなので、粒は小さいしやや酸っぱい。
「姉さん、チョコもつけてみましょう」
　チョコフォンデュコースの席についた二人は、さっそくチョコをつけてイチゴを食べ始める。
「あいおちゃん、口にチョコがついてますわ。取ってあげますから……」
　あいおの唇についたチョコを、アイオは指で拭ってからぺろっと舐める。
「うふふ、何だか妹が出来たみたいですわ」
「それにしてもほしびとから分裂したのに人種まで変わってるなんて、他に分裂したままの人達は実の兄弟姉妹の関係になったのが多かったとも聞きます……」
　あいおはアイオと違って獣人ではなく、猫耳はない。あくまで普通のひとなのだ。
　お互い実の親がいない一人っ子なのでちょっと寂しかったりするけれど。
「でもこうしていると、姉妹と変わらないでしょう？」　
「そうですね……あ、イチゴおかわり！」

　その時、そよそよとドリームエアーが吹いた。　
「あら？　ここはステージ？」
　それもただのステージではない。イチゴがたっぷり乗ったショートケーキ型のステージの上に二人は立っていた。
　観客席には人型のジンジャークッキー達が、ペンライトのような飴細工を持ってい身体を揺らしている。
　歌手になるのはアイオの夢だった。
　星幽塔ではバーに住み込みで雑用をこなしながら歌っていたけれど、歌一本でやっていきたいとずっと願っていて。
　寝子島に来て歌を動画にアップすることを覚え、街中ライブをしたりしていた。
「姉さん、衣装が……これ、ライブ？」
　アイオは元から生えてる白い猫耳にピンクの衣装、あいおは黒猫耳のカチューシャに青い衣装、色違いのお揃いだ。
「そうですわね、これはライブの真っ最中……」
　息を一つ吸い込んで、アイオは笑顔になった。
「そうと決まればやることは一つ。あいおちゃん！　一緒に歌いましょう！」
「姉さん、僕も同じ思いです、この不思議な舞台で思いっきり歌えることのわくわくを！」
　あいおもすぐに心を決めた。
「アイオとあいおのスペシャルステージ、ノリノリにノって行きますわよーっ！」
「あいお、頑張りますわ！」
　クッキーたちが歓声を上げ、ピンクと青の飴細工を振った。
　まだいろんなことに慣れてはいないあいおだけれど、こうやって歌を披露するときはいつも姉さんの真似をする。
「さあオンエアーです……ですわ！」
　
　軽快なメロディーに乗って、二人は思い切り歌い踊るのだった。

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