ンモ～っ♪　新春☆初夢フェア２０２１！　～鷹編～｜リアクション

ンモ～っ♪　新春☆初夢フェア２０２１！　～鷹編～

●寝子島神社の密やかな夜

　キューブパズルの面が組み変わるようにぱたぱたと場面は変わり、そこは現代、夜の寝子島神社の境内。
　ときに神とも崇められる、うつつならぬ者たちの宴が繰り広げられている。
『やはりお神酒は新潟産の日本酒に限る』
『いやいや会津の酒も捨てがたい』
　お猪口に鼻面を突っ込んでぺろりと舌で酒を舐めては論評を繰り広げているのは、ふだんは寝子島神社の入り口に鎮座し邪なるものから聖域を守る任についている二匹の狛猫、一之助と二右衛門である。

　阿と口を開いている方が一之助、吽と口を閉じている方が二右衛門。ふだんは鳥居の両側で石の姿で佇んでいるが、人ならざる者の時間である夜にはこうして猫の姿になって、互いに酒を酌み交わしたりすることもある。
「私としましては、近頃では北海道産もイケルと思っているのですがー」
　そんな人ならざる者たちの宴にちゃっかり混じっているのはシオ・レイゼルオーク、すなわち私だ。いつぞやのお三夜まつりで、可愛らしい黒猫のお三夜様や、彼女を守る騎士の如き狛猫たちと知り合ってから、すっかり彼らのファンになってしまった。心配性な一之助さんとしっかり者の二右衛門さん。私は狛猫たちが日本酒についてああだこうだと言い合うのを聞きながら、まったりとした時間を楽しんでいた。
「一之助さんと二右衛門さんって仲良しですねー」
　すると二匹はぴたりと会話を止め、よく似た金色の目を丸くしてこちらを見た。
『仲良し？』
『我らが？』
「ええそうです。だって楽しそうですもん」
『楽しそう？』
『そのように見えるのか？』
　私の言葉は二匹にとって、思いがけずも心外だったらしい。
「だっていつも一緒ですし、話も弾むようですし……それとも喧嘩をすることもあるんですか？」
『ある』と一之助が神妙に頷く。
「へえ、どんな理由で？」
『どんなと言っても……先達てはほれ、お三夜様の着物の柄で』
　そうそう、と二右衛門も頷き、その時のことを思い出してか眉根を寄せた。
『一之介と来たら、お三夜様には桜の柄が似合うという。だが我はやはり牡丹のほうがと申し上げた』
『牡丹では大振りの赤があまりに派手過ぎよう』
『何を言う。桜では儚すぎて、お三夜様の瞳の赤にやや足らぬ』
　喧々諤々はじまりそうになるのを酒を注いで止め、私は何やらほっこりする。
「喧嘩の原因はやっぱりお三夜様ですかー」
　お三夜様は寝子島神社の御祭神だ。人の姿を取る時は黒髪を切りそろえた和服の少女になる彼女は、狛猫たちにとっては妹のように目が離せない一方で、尊敬すべき上司のような存在なのであろう。
『シオ殿はどう思われる？』
『桜と牡丹、どちらがお三夜様に似合いであろうか？』
　急にこちらに匙を向けられる。正直言って、可愛い女の子の着物の柄なんて議論ならいつでも大歓迎だ。
「そうですねー。どちらもよくお似合いだと思いますが、私としては黒地に椿なんてのも似合いそうだと思いますよ」
　にこり微笑むと、
『成程、黒地に椿でござるか』
『確かにお似合いになりそうだ』
　なんて、一之助も二右衛門も大真面目に頷き返してくるので可笑しくなる。
「ふふ。いずれぜひ。それより私、一之助さんと二右衛門さんに似合いの着物も気になります。お二人が人の姿になるときは若武士の姿になるでしょう？　何色が似合うでしょう？　紺の亀甲？　鳶色の縞？　それとも新選組みたいな浅葱でしょうかー？」
　いやはや、と二匹は照れたような顔をした。
『シオ殿はまっこと話し上手だ。言い合いなどしているのがばからしくなる』
『まったく。敵わぬな。さてもさても、もう一献いかがかな』
　一之助がシオの赤い猪口に酒を注ぐ。
　それを飲み干し、私は二匹を抱きしめてふかふかの毛並みに顔を埋める。
「いろいろ災い多き昨今ではございますがー。無事に災禍を退けられますように！」
　願い、祈る。この寝子島は、一之助と二右衛門が守っていれば大丈夫な気がする。