お三夜まつりの夜。
鳥居を抜け、水舎で穢れを清めたのち、露店の並ぶ参道をそぞろに歩く。
老いも若きも猫のお面や猫の耳をつけ、まるで猫の世界に迷い込んでしまったかのようだ。
「ねーねー、りんご飴かって!」
「綿あめもかって!」
子どもが親の袖をひっぱり、目を輝かせておねだりしている。
「だめよ、最初はお三夜様にお参りしなくちゃ。りんご飴も綿あめもその後ね」
自分もあんな頃があったのかしらと
シオ・レイゼルオークは微笑ましく思う。
賽銭を投げ入れ、がらん、がらん、と拝殿の鈴を鳴らして、二礼二拍手一礼。
(今年も沢山の収穫がありました……ありがとうございます。今宵が楽しい夜でありますように)
くらりと眩暈のようなものを感じたのは、垂れていた頭を上げたとき。
奇妙に思いつつも参道の方を振り返り、目を瞠る。
幾重にも続く赤い鳥居。橙色に怪しい光を放つ石灯籠。
寝子島神社の境内に、別の景色が重なって見える。
不思議な景色は次第に実感を伴ってゆき、それと同時に、猫の格好をした参拝客の中に、二足歩行で立って歩く猫や、お面を被って人間に化けた猫、いつもどおりの姿の猫など、たくさんの猫が混じりはじめる。
シオが何度も瞬きしたとき、頭の中に不思議な声が響いた。
『たいへんだ! お三夜様が!』
ふたたびお社の方を振り返ると、慌てた様子の猫が二匹。シオとぱたりと視線が合う。
『そこな女、黒くて赤い目の猫を見なかったか?』
「いいえ」
『困った……これは困ったぞ』
「いったい何かあったのですか?」
猫と話が出来ることとか、境内に不思議な屋台が出ていることとかは、あまり気にならなかった。
お三夜まつりの夜は猫の世界と人の世界が混じるという噂を聞いたことがあった気がしたから。
二匹の猫は代わる代わるにこう言った。
『我らは狛猫。この神社を守護する者である』
『今宵はお三夜様をお祀りする夜であるというのに、そのお三夜様が消えてしまわれたのだ』
「消えた? それは大変ですね。どこに行ったか心当たりはないのですか?」
「あたし見てたよ」
飄々とした声がして、和服姿で煙管を咥えた白髪の老人が近づいてきた。
「失礼。あたしは
猫屋敷 宝という者だけどね」
その名の通り猫好きな彼は、猫の世界に紛れ込んだことなど気にもしない。むしろ楽しんでいる様子である。
「さっき見たのさ。黒いカラスが黒猫を追いかけ回して、ホレ、あの鳥居の方に消えてゆくのを」
鳥居……幾重にも続く赤い鳥居。寝子島神社の裏手に、こんな場所はなかったはずだった。
これも猫の世界の産物か。
『迷宮』『迷宮』と狛猫たちが囁き合う。
『お三夜様は<三千鳥居の迷宮>に入られたのだ』と。
「カラスはクローネだった」
闇の中から姿を現した
日暮 ねむるが言った。
「『猫のおまつりなんてイライラするわ~』って言いながら、黒猫を追いかけ回してたよ」
狛猫たちは人間たちに向き直って頭を垂れた。
『今宵は祭り。お三夜様のためにも、せっかくの祭りを混乱させたくはない。そこで内々に打ち明けるのだが。
祭りが終わるまでにお三夜様がお戻りにならないと、猫と人間の世界が交わったままになってしまう。
それはこの世の理に反することだ。
お祭りの夜にこんなことを頼むのは申し訳ないが、誰か、お三夜様を助けていただけないだろうか』
◇ ◇ ◇
どこからか聞こえる、祭り太鼓と笛の音。
秋の夜。寝子島神社の境内は賑やかだ。
リンゴ飴や綿あめなどふつうの人間の露店に混じって、猫たちの露店が並んでいる。
祭りという異界では、人間も猫も、交わり合っていることが当たり前に思えて来るらしい。
そうとも今夜はステキなお祭り。みんなみんな猫になって楽しむお祭り。
不思議な縁日、不思議な宴会。お祭りの夜は交わり合って更けてゆく。
こんにちは。
ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
お三夜祭りの夜は、猫たちもお祭り。
今宵は猫と人間のお祭りが、どうしたわけか交わり合ってしまったようです。
寝子島神社に夜の参拝に来たあなたは、この奇妙なお祭りに迷い込んでしまいました。
ひとの方も、もれいびの方も、等しくこの状況を受け入れてしまっています。
猫たちも、猫のままだったり人間に化けたりして祭りを楽しんでおり、
この日だけは誰でも猫と話が出来ます。
ろっこんも、不思議と思われにくいのでひとの前でも発動しやすいです。
【このシナリオだけの特別ルール】
このシナリオでは、あなたの飼い猫やよく会う猫など、「猫」としてアクションを掛けることもできます。
具体的には、
・PCとしてお祭りを楽しむ
・飼い猫としてお祭りを楽しむ
・PCと飼い猫半々ずつのアクションにして交流を楽しむ
などです。
猫として露店を出したり、猫の宴会に参加したり、猫として異変の解決に努めたり……。
猫が自分の噂をしているのをこっそり聞いてしまう、とかもアリです。
猫としてアクションを掛ける場合は、猫の名前・特徴・口調などと、
猫のまま/二足歩行/人間に化けている/そのほか どの形態かお知らせください。
※いっぱい知り合いの猫がいる方もアクションでは1匹のみでお願いします。
アクションでできること
主な行動は、以下のABのどちらかひとつを選んで、
必ず「キャラクターの行動」欄の冒頭に【A】【B】と記入してください。
どちらを選んでも、神事に参加してお守りをもらったことになるのでご安心を。
そのお守りは、持っていると「なにか願いがかなう!」と言われています。
お三夜さまの絵が描かれていて見た目もとってもキュート!
※本シナリオに参加したPC様全員に記念アイテムとしてプレゼントされます。
【A】寝子島神社で、不思議な縁日を楽しむ
神社の参道は、石燈籠の灯りの中に人間の露店と猫の露店が混じり合って、
不思議な光景が広がっています。
耳福池周辺では、猫の宴会も開かれているようです。
こちらの選択肢を選ぶ貴方は、お三夜様が消えたことを知りませんので
何も心配せずにお祭りを楽しんでいます。
※ガイドにご登場いただいた方でこちらの選択肢を選ぶ場合は、知っていて構いません。
【A-1】人間として普通の露店を出す
リンゴ飴、わたあめ、焼きそばなど、普通のお祭りで出ていそうな露店。
猫のお客さんが来ることもあります。
【A-2】猫として不思議な露店を出す
一夜明けるとガラクタになってしまうような、一風変わった品物が並びます。
お好きな品物を考えてお店に並べてみましょう。
例えば、猫たちの店には次のようなものがあります。
・水風船の形をした色とりどりの提灯「風船提灯」
・一瞬だけ運命が見えるという触れ込みの「運命万華鏡」
・水の中で遊べる「水中花火」
・素早く走るネズミが的の「ネズミ射的」
・高速で渦巻く水槽の中から金魚を釣る「高速渦金魚釣り」など
【A-3】人間の客としてお祭りを楽しむ
不思議な猫の品物を買ったり、猫や人間のお店に入り浸って手伝ったり、
人間や猫のお友だちと楽しんだり。
【A-4】猫の客としてお祭りを楽しむ
珍しい人間の品物を買ったり、猫や人間のお友だちと楽しんだり。
【A-5】耳福池周辺で、猫の宴会に混ざる
猫たちが耳福池のほとりで宴会を楽しんでいます。
そのほか耳福池に小舟を浮かべてデートしたり、縁日で買った食べ物や玩具で楽しんだり、
水中花火で遊んだり、みんな思い思いに楽しんでいます。
そのほか、思いついたことがありましたらご自由にどうぞ。
【B】祭りのウラでフツウを守る
クローネらしきカラスに追いかけられて、お三夜様は身を隠しているようです。
狛猫たちによると、
「お祭りの終わりを告げる花火が上がるまでにお三夜様がお社の中に戻らなければ
猫と人間の世界の融合が解けずに、世界がおかしくなってしまう」そうです。
こちらの選択肢を選ぶ貴方は、この情報を、狛猫たちや友人から聞いたりして知っています。
寝子島のフツウを守るため、クローネより先にお三夜様を探して、助けてください。
●お三夜様が隠れている場所
寝子島神社の裏手の森に出現した<三千鳥居の迷宮>のどこか。
数えきれないほどの鳥居が連なる不思議な場所。
分かれ道や鳥居と鳥居の間に猫の形をした石灯籠がある。
狛猫たちによると、
「迷宮のあちこちにある猫灯篭すべてに火を灯せばお三夜様は現れるだろう」とのこと。
ただし、迷宮の中では分かれ道に注意しなければならない、と忠告も受ける。
●分かれ道の試練
分かれ道では「影猫」たちが襲い掛かって来ます。
影猫はその名の通り真っ黒な影のように実体感の薄い妖猫なのですが、
迷宮に迷い込んだ者の姿かたち、特技やろっこんなどをそっくり真似る能力があります。
あなたは、迷宮に迷い込んだ誰かを真似た影猫と戦うことになります。
拳で戦う場合もあれば、話し合いになる場合もあるでしょう。
影猫が求めるのは試練に挑んだ者が「自分を乗り越えること」です。
なにか「自分を乗り越えた」と判断すると影猫は姿を消します。
分かれ道の試練を乗り越えないと、奥へ進むことができません。
一度試練を乗り越えれば、その後の分かれ道はふつうに進めるようです。
試練に負けると<三千鳥居の迷宮>からはじき出されてしまいます。
※特定の相手の影猫と戦いたい場合は指定が可能です。(自分、家族、友人など)
友人と一緒に行動している場合は、試練が混じり合う場合もあります。
その場合は協力しあうこともできます。
※特に指定がない場合は、ランダムになります。
【登場NPC】
お三夜様……寝子島神社のご祭神。黒くて赤い目をした猫。神様なので普通の猫よりは強い……はず。
狛猫たち……寝子島神社を守護する猫。心配性の「一之助」と、しっかり者の「二右衛門」。
クローネ……猫たちのおまつりが面白くなくて、お三夜様を追いかけ回している様子。
下記NPCもお祭りを楽しんでいます。
テオ ……………お祭りを楽しんでいたが、異変に気づき、寝子島神社の屋根の上で事態を見守っているよう。
永田 孝文………生徒たちを見回っているつもりが、すっかり不思議な世界に馴染んで宴会を楽しんでいる。
牛瀬 巧&吉田 熊吉…子ども(牛瀬ひかる・小1&吉田ちか・6才)を連れて一緒に縁日を楽しんでいる。
山之 鳶色彦……猫鳴館の地下に棲む「ねず」の少年。小さい猫のお面をつけ、お祭りを楽しんでいる。
※展開によっては登場しない場合もあります。
また、相手があることゆえ必ず希望通りの展開になるとは限りません。ご了承下さい。
お店を出される方は、コメントページをご活用いただくと、
他の方もアクションを掛けやすいかと思います。
縁日を見て回ったり、宴会を楽しんだり、フツウを守ったり、
猫と人間の世界が交わった不思議な夜をお楽しみくださいませ。
ご参加お待ちしております。