ンモ～っ♪　新春☆初夢フェア２０２１！　～鷹編～｜リアクション

ンモ～っ♪　新春☆初夢フェア２０２１！　～鷹編～

●琥珀

　とろけるような蜂蜜色した琥珀はパワーストーンとして古来から人気がある。ストーン、と言ったが石ではなく、木の樹液が固まったものだ。故に色合いも黒に近い茶色から透き通った太陽光のような黄色まで幅広く、まれに昆虫などが入っているものもあったりする。ダイヤモンドほど高価ではなく手に入りやすいのも魅力だ。
　西洋の風習では「幸運をプレゼントする」という意味で結婚十年目に琥珀を贈り合うのだという。

　砂浜に跳ね返った太陽の光があたりを満たしたかと思った途端、空間がぱたぱたと切り替わる。
　聞こえてきたのは小鳥の声。香ってきたのは、よく晴れた秋の朝の木々の香り。
　御巫時子は淡い水色の空を見上げ、気持ちよく伸びをした。
「おはようございます、時子さん」
　相変わらずぼさぼさの前髪をした愛しい人が家から出てきた。
「おはようございます、尚輝さん」
　高校時代の恩師、五十嵐尚輝先生と結婚して十年目。
　私は、尚樹さんといっしょに森の中にログハウスめいた新居を構えて穏やかな日々を送っている。
　キィ、キィ、キキキ……と鳥の声がしたのに尚輝さんは梢を見上げ、手庇をつくる。
「ああ、モズの高鳴きでしょうか」
　つられて私も見上げると羽根の先だけ墨色に染まった、琥珀色の小鳥が長い尾を回していた。
　しばらくそれを二人で眺めて、それから尚輝さんは私の方へ向き直った。
「こうして貴女と秋を迎えるのも十回目ですね」
「……はい、そうですね……」
「実はその……十年目の記念に、あなたに渡したいものがありまして」
「まあ。なんでしょうか……？」
　これです、と差し出された白い箱には、素敵な蜂蜜色の玉が連なるネックレスがおさまっていた。
「琥珀、でしょうか」
「ええ。琥珀にはよいエネルギーがあるそうで……幸福を引き寄せるのだそうです。あなたへのプレゼントを探していた時、たまたま琥珀を結婚十年目に贈り合うのだと知りまして。僕はあなたが幸せなのが、一番うれしいですから、ちょうど良いと思ったんです。……受け取っていただけますか？」
「勿論です。……うれしいです」
　つけてあげましょう、と尚輝さんはネックレスを私の首に回して、抱き込むように首の後ろに腕を回した。私の胸は高校生の頃と同じように高鳴る。十年経ってもずっと好きだ。お互いに年をとってもその気持ちだけはずっと変わらない。

「どうですか……？」
　見上げて尋ねると彼は満足そうに微笑む。
「思った通り、よく似合います」
「ありがとうございます。そうしましたら……私からもお礼をさせて貰えませんか？」
「お礼ですか？」
「ええ。いっしょに来てください」
　私は尚輝さんに腕を絡める。もう十年目だというのに、こういうことに免疫がつかない尚輝さんは、照れ臭そうに黙り込んでしまう。私はそんな彼の手を引いて森の中へ。
「……ここです」
　辿り着いたそこは、一面のコスモス畑だった。
　白や桃色や紅色の花たちがそよ風にいっせいに揺れて、まるで恋色をした海のようだ。
「すごいですね……」
「気に入っていただけたでしょうか……この景色を尚輝さんに見せたかったんです」
「気に入りました。素敵なプレゼントをありがとうございます。あなたは本当に僕を喜ばせるのが上手だ。僕の自慢の奥さんですよ」
「そこまで言われるとこそばゆいですが……私も、尚輝さんが幸せなのが、一番うれしいんです」
　私は彼の肩に頭を預けて、揺れるコスモスの海を眺めた。
　やわらかい琥珀色したおひさまの光が、私たちを包み込んで幸せにしてくれる。
　首元の琥珀を撫でて、私は祈る。
　二十年後も、三十年後も、こんなふうに幸せでありますように……。