ンモ～っ♪　新春☆初夢フェア２０２１！　～鷹編～｜リアクション

ンモ～っ♪　新春☆初夢フェア２０２１！　～鷹編～

●ハル

　キューブパズルの面が組み変わるようにぱたぱたと景色が変わる。
　朝の森から、寝子島にある学生寮のひとつ桜花寮の一室へ。
　その部屋は個室で、ほかの部屋と同じ備え付けの家具があり、柔らかく整えられたベットがある。その掛布団の上に青い目をした黒猫が、自分によく似た人形と一緒に丸まって寝ている。この部屋の主は、内緒で猫を飼っていて、人形はそのカモフラージュでもあるのだ。

　申し遅れたけれど自己紹介。名前は「ハル」。ご主人様である恵御納夏朝ちゃんの左手にいつも嵌っているオレンジ色の猫パペットにゃ。
　そして黒猫は「おはぎ」さん。おはぎさんは普通の猫じゃあない。レンズ・キャッツといって、眼がカメラのレンズでしっぽはアンテナ、ときどきすーっと姿を消す能力を持つヘンな猫だ。ご主人様がつけたフルネームは「恵御納・アン・おはぎ」。ハルの名前よりゴージャスにゃ。――羨ましいかって？　ううん、ハルは「ハル」で嬉しい。ご主人様はハルを中３の春に作ったから「ハル」って名付けてくれた。そのときの想いが詰まった名前だから気に入ってるにゃ。
　それに、おはぎさんはお留守番ばかりだけれど、ハルはいつもご主人様にいろんな冒険に連れて行ってもらえる。寝子島の中はもちろんのこと、星幽塔っていう場所や、どこかわからない異世界にも行ったことがある。
　そういうときのご主人様は格好いいにゃ。
　ご主人様には、物を重くしたり軽くしたりできる神様から授かった不思議な力があって、それでいろんな事件を解決したりしちゃうんだ。その不思議な力「ろっこん」を持った人は寝子島に何人もいて「もれいび」っていうらしいけど、ろっこんのことももれいびのことも、フツウの人には秘密にゃ。
　それだけじゃない。ご主人様の中には、もう一人の別の女の子・夏夜ちゃんがいて、ときどきご主人様と入れ替わって行動していた。ご主人様と夏夜ちゃんは体はひとつだから同時には出てこられないみたいで、交換日記でお互いのことを知らせあっていたにゃ。

　ところがね、近頃ご主人様は「夏朝ちゃん」と「夏夜ちゃん」のふたりになっちゃったんだにゃ。
「不思議だにゃ。人間たちはもう一人のご主人様もずっと前からいたみたいに思ってるにゃ」
「ああら、不思議の何がいけない？」
　おはぎさんはそう言って大欠伸する。
「この世は不思議で満ちているのよ、ハル」
「おはぎさんのように？」
「そうよ」
　にやっと笑ったおはぎさんはすーっと姿を消して、人形の黒猫だけがベットの上に残った。
　ぱたぱたと足音がしてドアが開く。ご主人様だ。
「ただいまハルくん。……あ、おはぎ、ありがとう。足音がしたから消えて隠れてくれてたんだね」
　すうっと再びベットの上に姿を現したおはぎさんを抱きあげて、ご主人様は「賢いね」と囁いている。
　羨ましいにゃ、って思っているとご主人様はこっちに来て、いつものようにハルのことを左の手に嵌めた。
「ハルくん、事件だよ。今日もいっしょに行ってくれる？」
　頷きたい。
　もちろんだよ、ってご主人様に伝えたい。
　頼ってくれて嬉しい、ってご主人様に抱きつきたい。
　けれどパペットの身ではそれはできない。
　だから将来の夢は「付喪神になる事」。
　前におはぎさんが教えてくれたんだ、物として百年経つと付喪神になれるって。
　だから百年がんばるにゃ。
　ご主人様とずっといっしょにゃ。
「せいぜい頑張りなさいな」
　おはぎさんはまた大欠伸して、我関せずというようにベットの上で丸くなった。
　ご主人様はハルといっしょに、前を見てキリリ、不思議な事件の解決へ向かうのだった。