みんな、VMewberだよ！｜リアクション

みんな、VMewberだよ！

伝説のクソゲーをプレイする

　身体にフィットした白いエナメル質の衣装は、あちこちからコード状の装飾がぶら下がっている。
　サイバー系VMewberとしてゲームの実況中継を行うことになった仙藤蒼が手にしているのは、数十年前に発売されたＲＯＭカセットだ。
「VMewber配信、よく見ているけどまさか自分がね……ま、せっかくだし？　今回は伝説のクソゲー『サイレントキリング』をご紹介しようと思いまーす」
　カセットの底の接触部分をふーっと吹いて埃を吹き飛ばし、平べったい箱型のレトロゲーム機にガシャンと嵌める。スイッチをＯＮにすると、ピコピコというシンプルな音楽とともに色数少ないドット絵が表示された。
「ご存知の方も多いと思うんだけど、一応ストーリーを紹介するね」
　『世界征服を目論む秘密結社が太平洋上の孤島に密かに作り上げた秘密基地。プレイヤーは潜入捜査官として秘密基地に潜入、基地を破壊し世界の平和を守れ！』――というのがサイレントキリングの箱裏に書いてあるストーリーである。
　胸アツなストーリーだが、ゲームのつくりは雑だ。
　まず、プレイヤーの分身たる主人公、スタート時は丸腰である。敵の兵士を殺して、武器やＩＤカードなどを盗まなければいけないのだが、その兵士というのが最初のステージに出てくるザコのくせに理不尽に強い。
「あっ。即死じゃん！」
　リトライ。
「お、お、今度は倒せた。この先は、と……潜入作戦だから、雑魚との戦いは最低限にして物陰や段ボールや木箱などの中に隠れながら進むんだよね？　隠れてるのに発見されまくるんですけど！？」
　また死ぬ。だが伝説のゲームだけあって、プレイのコツを教えてくれる視聴者には事欠かない。
「――実は隠れるよりそのまま堂々としたほうがなぜか見つからないって？　まさか……マジか。解せぬ」
　さすが伝説のクソゲー、狙ってかバグなのかわからないがプレイヤー心理の裏を突いてくる。
　ほかにもこのゲームには、様々な解せぬポイントが存在する。
　例えば、ダメージ判定が雑すぎて、銃弾やバズーカに当たっても1発では死なないが、1ドットの段差で簡単に死ぬ。
　ザコの方が中ボスより強い。
　アイテム入手法が極端に難しい。当時の子どもたちは全員泣いたであろうレベルだ。
　さらには主人公は強面の男なのに、声のＳＥが甲高いので雰囲気が出ないと来ている。
「いや、当時の技術で声優さんとか使ってリアルなボイスを入れられなかったってのは分かるけどね。機械音で代用とはいえ、主人公の声にこの音はないっしょ……」
　ツッコミながら進めていく。そう、死ぬ回数は多いが、進んでいるのだ。
　クリアするには超絶技巧を必要とされ、販売２０年近く過ぎてもクリアできた者が５人もいないといわれる伝説のゲームが今、やり込みゲーマーとして鳴らしてきた蒼の腕によってクリアに近づいてきているのである。
　これが視聴者数を稼がないわけがあろうか。
　否！　皆、見てみたかったのだ！　このゲームがクリアされるところを！
「いっけえええええ！！！！」
　最後のボスとの決戦を迎え、蒼は叫んだ。
　画面の前の数万人の視聴者たちも同じように叫んでいたに違いない。
　そして――。
　爆破されるドット絵の秘密基地。
　暗転したのち表示される『ＣＯＮＧＲＡＴＵＬＡＴＩＯＮＳ』の文字。
　しょぼい。クリアに掛けた労力にくらべてエンディングがしょぼすぎる。
　だがもうそんなことはどうでもいい。
「クリア、したよおおおーーーーー！！！！」
　蒼が部屋から出られたことは言うまでもない。
　クリアしたとき視聴者数は１０万を優に超え、１００万に届く勢いであったという。
　

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