みんな、VMewberだよ！｜リアクション

みんな、VMewberだよ！

刀剣ボーイズとリアル免許皆伝男子

「VMewberって何だ？」
　寝子島町役場に勤める職員であり、錬士七段を持つ剣道家でもある伊藤武正は、多くのお父さんたち同様そんなに流行りには詳しくない。変な部屋に閉じ込められ、いきなり視聴者１０万人獲得と言われても何のことやらではあったが、モニターにやけに美形な男性が写っていて、自分と同じように動くことに気が付くと、何をすればいいのかわかってきた。
　改めて画面の中の美男子を見る。
　目つき鋭く長身で筋肉質な男だ。硬派で無口そうなところは自分に似ていなくもない。
「これは確か部下の女の子達が騒いでいた、刀剣ボーイズという奴か？」
　ご婦人に人気の刀を擬人化したゲームのキャラクターであったろうか。
　家が剣道道場だと知った職場の若い女の子に刀について聞かれた時に見た覚えがある。
「たしか正宗？　三池典太？　よく覚えていないが……刀なら刀のパフォーマンスをすればいいか」
　部屋を見渡すと模造刀が置いてあった。不思議に思いつつ手に取る。
　家伝の一刀流は免許皆伝とはいえ、人に見せるための剣舞はどちらかというと苦手だ。しかし今はそんなことを言っている場合ではあるまい。
　配信開始のボタンは何とか分かった。
　武正は言葉少なに一礼すると、思い切りよく諸肌を脱いでみせた。
　以前妻が、腐った女子はそういうのが好きと言っていた気がするからだ。
（……女子が腐るとはどういう意味なんだろう？）
　コメント欄を流れる文字のスピードが一気に上がった気がするが、その現象の意味もよくわからない。わからないのだから、結局は、自分に出来ることをするだけだ。
　す、と流れるように剣を構え、一本目から順に一刀流の型を演武する。
　免許皆伝は伊達ではなかった。
　その一挙手一投足はまるで能の所作のようでもあり、ぞくりと背筋が痺れるような美しさがあった。

　――ゲーム本編より美しい刀剣VMewber！

　口コミが広がり視聴者数はみるみる上昇してゆくが、ネットに疎い武正は知らずに演武を続けていた。
　型を終えると、蝋燭に火を灯し、
「ハッ！」
　と気合一閃、居合の剣風でそれを消してみせる。
　さらには何故か転がっていた林檎を放り投げ、床に落ちるまでに居合で３つに切る技を披露。
　無言で模造刀を鞘に収め、礼をする。
（画面越しに熱気は感じるが、まだこの部屋から出られていないということは１０万には足りていないか）
　そう悟った武正は、ここぞと大技に挑むことにした。
「居合は我が流の奥義、夢想剣に名が似てるので学んだ夢想神伝流を披露する」
　目を閉じて、しんと心を鎮めてゆく。
　世界のありさまと呼吸を合わせ、――抜いて、打ち込み、十閃！
　演武の間、息を詰めて見守っていた視聴者たちが、武正が剣を収めたのと同時に一斉にコメントした。

　――８８８８８８８８８８８８８８８８８８
　――やばい！　ガチの免許皆伝者サイコーすぎる！
　
　そうして……気づけば武正は自分の部屋にいた。
　ひとつ息を吐き、首に手をやって肩を回す。
「数字は見てなかったが、視聴者１０万人を獲得したか……やれやれ、慣れない事をして疲れたな」
　疲れたが、充実感があるひとときだったことを、認めないわけにはいかないだろう。

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