【星幽塔】第一階層　聖剣の君｜リアクション

【星幽塔】第一階層　聖剣の君

【剣の鞘】

　剣はあくまで武器、道具である。ふさわしい持ち手が振るうことによって、その本分はようやく完成を見るというものだ。
「う～～～ん」
　しかるに聖剣は、悩んでいた。
　Barアストラル。マスターのおごりのキャロットジュースをちびちびとやりながら、少年は取れんばかりの勢いで首を振る。
「きめられない！」
　聖剣『ハウケルン』のお眼鏡にかなったのは、レグルス・シェルタン、尾鎌蛇那伊、ティオレ・ユリウェイス、吉住志桜里、ゼロ・シーアールシーの５名。ゼロなんかは最後遊んでたんちゃうんかと思わないでもないが、つまるところみんな違ってみんないい。決められない！　とのことである。
「レグルスのおっちゃんもつよかったし、おかまのおっちゃんもたのしかったし……」
「お兄さんよ。悪いけどアタシはパスね」
　あっさりと言った蛇那伊へ、酒場でクダを巻く名もなき冒険者たち……主に少年にぶっとばされた方々だが、彼らからはマジで？　という視線が注がれた。
　蛇那伊はけろりとして肩をすくめる。
「アタシ、無手を鍛えてるから。武器を使うことはあれど究めるつもりはないわ。今回は強い相手と戦えただけで満足よ」
「うんっ、たのしかったぞ～おかまのおっちゃん！」
「お兄さんよ」
　かろんとグラスを傾け、ティオレもまた聖剣所有の意思なきことを伝えた。
「私は盗賊だけどね。一人が抱えるには重たいお宝じゃない？」
「おれ、おもいかなぁ？　ねーちゃん」
「ええ、重いわよ。すっごくね。だから私もパス。久しぶりに手練手管の全てを出せて、ま、楽しかったしね。それで十分よ」
　ティオレがたおやかに頭を撫でると、少年はくすぐったそうに笑った。
　かたや志桜里とゼロは、アピールに積極的だ。
「もちろんどうするかはあなたの自由です。けれど認められたのなら、冒険者冥利に尽きますね。私を選ぶなら、人なる姿の鞘ということで、特製の服をつけて歓迎しますよ！」
「聖剣さんはゼロがゲットしたのですー。ゼロのおうちに持って帰るのですー」
「むー。ゼロのはズルだもん、おれまけてないもん！」
　と言いつつ、ゼロとの夢の中でのはっちゃけバトルはたいそう楽しかったらしく、悪い気はしていないようだし、志桜里との重厚な攻防だって大いに楽しんだ。
「しおりねーちゃんはつよかったけど、せりかはよわっちいからダメ～。ちょーがんじょうですごいけど！」
「はいはい。元より私はパンＴの付き合いだからさ」
　雨梨栖芹香もひらりと手を振り辞退の意を伝えたが、少年は腕組み。うんうんとうなりは止まらない。
「何にせよ、だ」
　グラスを掲げ、隣のティオレと杯を合わせながらに、レグルスは言った。
「ハウケルン、お前さんはただの剣じゃない。自分の意思があるんだ。お前さん自身の意思で決めるんだな」
「おれのいし……」
「と、同時にだ。お前さんを探すよう頼んだ依頼人もな、それなりに苦労をして遺跡からお前さんを見つけたはずだ。そのことは忘れるなよ。俺も冒険者だからな、見つけたものを手元に置きたいって気持ちはよく分かる」
「ん～～～」
　まだ少年の顔には迷いが浮かんでいるが、レグルスの言葉でいくらか気持ちも固まってきた様子だ。
　そして彼の言葉を図らずも代弁したのは、ちょうど酒場へ顔を見せた依頼人その人だった。
「よお、ありがとなみんな。ところでその子の処遇について、俺から一つ提案があるんだが」

　その後。
　Barアストラルには、一人の少年が身を寄せることとなった。
「ハウくん、生ちゅーひとつなのー！」
「はーい！　いまもってく！」
　ステラ・ラ・トルレへジョッキを運ぶ彼は、褐色肌をして、美しい黒の長髪を腰まで伸ばし、瞳は青く無邪気に輝いて、そしてなぜだかメイド服を着ていた。
　聖剣の処遇はひとまず、冒険者ギルドの預かりとなった。普段は人の身で給仕のアルバイトなどこなしつつ、彼自身の眼鏡にかなう冒険者のお呼びがかかれば、剣となって力を貸すのだ。特にレグルス、蛇那伊、ティオレ、志桜里、ゼロの５名については優先的にその権利を行使できることとなった。力を示した勇者の特権であろう。
　かの依頼人たる中年男は、それらに比べればへっぽこもいいところの三流冒険者ではあったが、何だかんだと深い遺跡から太陽の下へ引っ張り出してくれたことには、ハウケルンも感謝しているらしい。
　その日彼は、他愛もないゴブリン退治ながらクエストに少年を同行させたのだったが、
「おっちゃん、おれけんになるから、ふってみて！」
「つったって、俺はレグルスの旦那やティオレのねえちゃんほどにゃあ剣もつかえねぇぞ？」
「いーからはやく！」
　聖剣ハウケルンを手に、一振り。放たれた碧緑の剣閃は小高い丘一つをモンスターもろともに根こそぎ吹き飛ばし、彼はすっかり腰を抜かしたということだ。

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あとがき

担当マスター：墨谷幽
ファンレターはマスターページから！

　墨谷幽です。
　お待たせしました！　『聖剣の君』のリアクションをお届けいたします～。

　今回は剣の化身である純粋無垢な少年と、激しくバトルな感じのお話でした。
　勝敗はあえて曖昧にしておりますけれど、両者大いに楽しんで、冒険者の力を見せつけることができたようです。

　今後星幽塔シナリオで、もし聖剣くんの力が借りたくなったら、アクションにてＵＲＬ込みで指定すると、登場できるかもしれません。
　（※必ずしも登場可能なわけではありません。シナリオやマスターさんによります。
　　　墨谷の星幽塔シナリオなら大体ＯＫです）
　ただ、彼の力は絶大ながら、それだけに燃費はあまりよろしくないようです。また強すぎる攻撃がうっかり味方に被害を及ぼさないとも限りませんので（彼自身にその配慮はありません）、どうぞお気を付けて。

　それでは、今回もご参加いただきまして、ありがとうございました。
　また次の機会にもお目にかかれますことを、心よりお待ちしております～。
　お疲れさまでしたー！

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