男の娘Day★｜リアクション

男の娘Day★

「御入店されるには、変装される必要がありまして……」
　エプロンの前で手を揃えた一二三が、説明を繰り返す。
　灰色の髪をポニーテールに結った、逆巻天野は何度目かのため息を零した。
「僕はテイクアウトしたいだけなんだ。女装をすれば、スイーツがサービス？　いや、それは要らないんだけど」
（たしかに美味しいと有名なスイーツには興味有るけど、女装するとなれば、話は別だし）
「男の娘でなくても構いませんので、ご協力していただけませんでしょうか？」
「変装なんて、嫌だ。なら中に入らないから、ここで待ってるからさ。注文させてよ」
「そう言うわけには……ちょっとだけ、少しだけで結構ですから……していただかないと、私が店長に……うぅ」
　うつむき、鼻を鳴らす一二三。
（な、泣くのは反則だろう…………うう、もう）
「わ、分かったから！　するよ、すればいいだろう！」
　ぱっと顔を上げる一二三。既にニコニコスマイルを浮かべている。
「はい！　ありがとうございます。一名様ご案内です」
「ふう……まったく……適当でいいからね、適当で」

　しばし後……着替えを終えた逆巻は店内に案内された。
「学生服か……まあ、百歩譲って、これは良しとしよう……だが、これは、なんだ？」
　黒の詰め襟、金のボタン。スタイルの良い逆巻は、キッチリと着こなしている……ただ、頭の上の猫耳で台無しだが。
「……はぁ～もういいや……」
　カウンター席に案内された逆巻は、注文を告げる。
「ホットコーヒーブラックで……あと、お持ち帰りは……あ、できるんですか。日持ちする奴って……チョコのビスコッティ？　なら、それを持ち帰りで……え、時間？　あ、ああ、大丈夫」
（注文を受けてから焼くのか……出来たてね……はは喜んでもらえそうだ）
　贈る相手を思い浮かべ、唇をほころばせる。
　ゆっくりと店内を見回す逆巻。
（巫女さんに、チャイナドレス……んん、あそこの女の子？　なんか見覚えあるような）
　首を傾げる逆巻。
　視線の先には、なぎさのカントリー系のワンピースと取り替えた、零の姿があった。
（誰だっけな……）
　そんな逆巻の思考は、ハスキーボイスで中断される。
「ふふふ、随分と難しい顔、してるわね」
　声の主を求めて視線を巡らす……白いワンピース姿の八神修が目に止まった。
「え？　あ、あぁ、まあちょっとね」
（これはまた、綺麗な人だな）
「お一人？　良かったら、こちらでご一緒しない？　ね、ダーリンいいでしょう？」
　傍らで熟したトマトの様になっている、桜井ラッセルに語りかける。
「だ、ダーリン！？　くっ……ま、まあいいぜ……よ」
「そちらの金髪セーラー服さんは、土佐の方ですか？　あ、そうか、だからセーラーなのか」
「誰が船乗りか！　あ、ご、ごほん、違う……よ」
（面白い組み合わせだな。どんな関係なんだ？）
　興味を持った逆巻は、コーヒーカップを手に、二人のテーブルに着いた。
「ふふ、あなたも男の娘さん？　猫耳、キュートだわ」
　手を伸す八神。さわさわと猫耳に触れる。
「い、いや、そう言うわけでは……あ、あの、あまり触れないでもらえると嬉しいのだが」
「どうして？　もふもふで気持ちいいわ。ねえ、ダーリン、あなたも触らせてもらいなさいな」
　肩を震わせている桜井に、声を掛ける八神。
「お、わ、私は遠慮するぜ……よ……くくっ」
「？　えっと……お二人はどんな関係なんですか？　姉妹って感じでもないですし」
　あらと口元を抑える八神。指の隙間から、艶やかな唇が覗く。
「そおね……知人、友達。ううん、恋人かしら……ね、ダーリン」
　桜井の頬に手を置く八神。その指がそろそろと下に降りる。
　顎を這い、首筋を辿り、鎖骨の上を辿り、やがて……セーラー服に覆われた胸へと……
「い、いーーーーかげんにしろぉ！　やがみぃいいいい！！」
　ガタンと音を立てて立ち上がる桜井。
「八神？　って、お前……桜井か！　なんて言う格好してるんだ？　まあ、結構似合っていると言えば、似合っているが」
「違う違う違うぅ～～俺は桜井じゃねえ！　桜井は居ないんだよ～～～」
　ブンブンと頭を振る桜井。金色の短いツインテが揺れる。
「はぁ、まあそっとしておくか……しかし、八神、正直おどろいたぞ、お前とは思わなかった」
「ふふ、逆巻にばれないとは、俺の女装のなかなかの物だな」
　良く知った声が知らない顔から聞こえてくる、その違和感に途惑う逆巻。
「これだけ化けるとは……さては、お前、普段からしてるのか、女装？」
　そうじゃないと苦笑する八神。
「この前歌舞伎についての本を読んだんだ。主に女形についてのだな」
　八神曰く……内側への動作や止めの角度を心がけると、女性らしく見えるとのこと。
「だって身長なんかは誤魔化しが効かないだろう？」
「ああ、俺は身長の割に座高は低いからな。立っているときだけ、スカートの中で、軽く足を曲げればＯＫだ」
「ま、たしかにね……ふー、すっかりだまされたよ」
　傍らで悶えている桜井を尻目に、にっこりと笑う美女……八神であった。

このページにイラストを設定する

男の娘Day★

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧