留年だけはご勘弁！　～補習編～｜リアクション

留年だけはご勘弁！　～補習編～

●やる気は出ないが仕方ない

　椎井莉鳥は補習授業を受けるために教室へやってきた。

　しかし、彼女は３年生への進級は決まっている。
　それにも関わらずこの授業に臨んだのは理由がある。
　音楽が３７点、美術が３２点と、他の科目に比べてあまりにも悪い。
　この２科目以外の点数が悪くないだけに、余計にこの２つの成績の悪さが目に付く。

　それゆえ、莉鳥は音楽と美術の補習にでることになった。
　内心、あまり乗り気ではない。

　確かにこの２科目の成績が悪いといえば悪いのだが、それでも赤点ではない。
　くわえて、彼女にとって音楽と美術に関しては才能が欠如していることが明らかという認識があった。

（やるだけ無駄……）

　元から無い才能が補習で目覚めるわけではない。
　この意識が強く、やる気は出なかった。
　それでも教師に言われて、こうして教室にやってきた。

　もっとも、彼女が補習に出るように言われたのは、これだけが理由ではない。
　莉鳥は１年生の時に不可解な留年をしたことを、教師たちも覚えているのだろう。
　成績面での不安を少しでも減らしておきたいという思いもあるのかもしれない。

　事情はさておき、補習は面倒だし気が進まないのは事実。

（とりあえず５０点程度取れるように努力するか）

　そんなことを思いながら補習を受ける。
　最後の救済措置でもある補習授業は、丁寧に要点を解説しつつ進められる。

（普段の授業とそんなに変わらない、けど……）

　莉鳥の視線は机の下に向けられていた。
　そこにはマンボウ君のミニチュアのような存在がうろうろしている。
　しかも１体だけではなく、窓のところや教室の隅にもいる。
　さしずめ、コマンボウ君といったところか。

　気づくとコマンボウ君が机の上をとてとて歩いてきた。
　ペンを動かすにもノートを広げるにも邪魔で、どいてほしいという念を込めて睨みつける。

『きゅう』

　そしたら、弱々しい鳴き声とともに気絶してしまった。
　他にも頭に乗ってきたり、莉鳥の周りをくるくる回ったりと邪魔ばかりしてくる。
　非常にイラっとするが、教師には見えていないようで対処できない。

（追試、大丈夫か？）

　どうにか補習授業を終えた莉鳥は、そう思わずにはいられなかった。

このページにイラストを設定する