留年だけはご勘弁！　～補習編～｜リアクション

留年だけはご勘弁！　～補習編～

●机上の楽譜

「音楽、赤点取っちゃった……」

　響タルトは音楽の答案用紙を眺めながら、がくんと肩を落とした。
　こうなっては補習授業を受けるほかない。音楽担当は樋口弥生先生だ。

（赤点は先生に申し訳ないけど、弥生先生の授業なら数学とかと違って苦にならないな♪）

　もしこれが数学や物理だったらどんな心境で補習に臨んでいただろうか。
　きっとやる気皆無だったに違いない。そういう意味では、赤点が音楽だったのは幸運だったかもしれない。

　音楽室にやってくると、他にも補習を受ける生徒が先に座っていた。
　タルトも席に腰掛けて筆記用具を準備していると、弥生先生がやってきた。

「では、これより補習授業をはじめます」

　その一言で始まった補習授業。
　先生の解説を聞きながら、皆がそれぞれノートにメモを取る。
　タルトもペンを動かしていたが、ふと視界の端に青い何かが見えた。

（……って、えっ？　ちっちゃいマンボウくん？）

　じっと目をこらすと、やはり小さなマンボウくん――コマンボウくんがいた。
　しかも一匹だけではなく、音楽室のあちこちで自由に過ごしている。

（あれ、先生には見えない？　なんとなく気になるくらい？）
　
　視線をあげると、先生や他の生徒は補習に熱心でよそ見をしている様子はない。
　しかしタルトはコマンボウくんに興味津々で、目を輝かせる。

（可愛い～！　これも簡単に気絶しちゃうのかな？　気になるけど、補習は真面目に受けなきゃ……）

　そう思って先生の解説に耳を傾ける。しかしコマンボウくんたちもとても気になる。

『きゅう』

　耳に神経を集中していたタルトの耳に、コマンボウくんの鳴き声がはっきり聞こえた。

（かわいい！！）

『きゅ』
『きゅう！』
『きゅっきゅ』

　それぞれに鳴き声が違うようで、タルトの机の上に集まってくる。
　とても可愛いけれど、構っていたら補習の内容を聞き逃してしまう。

（そうだ！　コマンボウくんたちを並べて楽譜を作ろう！）

　見たところ、タルト以外にコマンボウくんを気にかけている人はいなさそうだ。
　机の上にいる彼らを横一列に並べる。

（あ、鳴き声が音階っぽい♪　これなら音楽の勉強にもなるね！）

　こうしてタルトは
　コマンボウくんたちの鳴き声や仕草を楽しみつつ、
　補習の内容もしっかり聞いたのだった。

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