留年だけはご勘弁！　～補習編～｜リアクション

留年だけはご勘弁！　～補習編～

●邪魔はさせない

　穂現まうは憂鬱な表情を浮かべていた。
　その手に握られているのは期末試験の答案用紙だった。

　２学期の期末試験では国語が０点、数学が５点。
　３学期では音楽と体育がどちらも１９点。
　補習授業と追試を受けるのは確定している。
　実力も調子によって上下するが、今回がそれが悪い方向に振り切れてしまった。
　
（補習も追試も、受ける……。まうが留年して猫鳴館に何かあったら、いやだ……！）

　猫鳴館は彼女にとって、とても大切なものだ。
　直して守っていきたいし、壊そうとする存在は嫌っている。
　彼女の成績が悪い事が、なんらかの形で猫鳴館に影響を及ぼすかもしれない。
　それはなんとしても避けたかった。

　そんな思いを抱えながら、国語と数学、音楽と体育の補習授業を受ける。
　最後の救済措置でもあり、追試を見据えた要点の学習に絞っていた。
　指導も分かりやすく、生徒からの質問に担当する教師たちも快く答えている。

　ただ、その授業中に違和感があった。

（……なに、これ……？）

　まうの座っている周辺に何か青いものがわらわら出てきた。

（おさかな……？　先生たちは気づいてない、のかな）

　こっそりと周りを見てみると、
　生徒たちは授業内容に集中しているし、先生も何かを気にしている様子は見られない。
　そうこうしている間にも、それらは増えていき、まうの机の上にもいっぱい乗ってきた。

（わらわらうごうごしすぎて、補習のじゃま……！）

　どうにか机の上にいる分だけでも対処しようと、息を吹きかける。
　消しゴムのカスを飛ばしているような素振りで、できるだけ自然に。

（……よし飛んだ！　これで机の上の奴だけでも片づけて補習を……）

　机の上に乗ってきたら吹いて飛ばす。
　最初はそれでなんとかなったが、数が増えるばかりで一向に集中できない。

（……吹いても吹いてもわらわらと……もうういい、鉛筆で串刺しにする）

　まうは刺すために鉛筆の握り方を変えると、躊躇わずにそれらに向かって振り下ろした。

『きゅう！？』

　それらが驚いたような声を上げると、そのまま気を失った。
　何度も、何体も、さくっと刺して。刺して。刺して。

（火で炙れないのが残念だけど、このままノートに書き記す。こいつらの生死より勉強のほうが大事……！）

　他の人には見えてないのが救いか。誰も騒ぐことはなかった。
　それでも机の上には他にもいる。

（まだ邪魔するなら……今度は目を刺すから。目刺しにするから。これ以上、まうの邪魔をするな……！）

　まうはそれらを鋭く睨みつけた。何かを察したのか、震えながらどこかへ退散していった。
　その後は何事もなく補習が終わり、まうはほっと一息ついた。

（……邪魔さかなのせいで、あんまり集中できなかった）

　先ほどの出来事を思い出し、少し苛立つ。

（猫撫でたい……邪魔さかなきらい……！）

　筆記用具などをしまうと、図書室で勉強しようと教室を出た。

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