急に山脈　～飛ばされてここはどこ～｜リアクション

急に山脈　～飛ばされてここはどこ～

承：その先にあるものは湯けむりと絶景と……。

　山小屋を出、登山を開始した９名。
　標高2000ｍ付近から、まずはならすように少し遅いテンポで歩いていく。
「あら？　きれいな鳥が飛んでるわねぇ」
「わあ！」
　景色を楽しむぐらいの心の余裕を持とう、と考えた尾鎌蛇那伊は空を舞う鳥に目を細める。隣を歩いていた羽生碧南もまた、羽根の美しさに目を奪われたらしく歓声を上げた。
「あの鳥名前を知ってるか？」
　さりげなく高峰一馬が問うも誰も答えられない。鳥好きな御巫時子も見たことがない鳥だったようで「初めてですね……」と目を丸くしていた。彼女はあたりをきょろきょろしながら登っていた為、ほかにも同じような鳥を見つけることができた。
「羽根の模様から、キジバトに似ているようですが……」
　傍らの五十嵐尚輝が鳥を観察しながら首をかしげる。
　一方、先頭を歩いていたサキリ・デイジーカッターは、絡むように生えた謎の草を愛用のマチェットで切り払っていた。
（何だ……？　この怪しい植物は。シダっぽいけど棘が鋭いな）
　慣れた手つきでマチェットを使い、あっという間に道を切り開く。この草を見た尚輝はこれも初めてだったらしく「日陰でもないのに……」と訝しがっていた。
（ちょっと、しんどいかも）
　少し後ろのほうで万条幸次がネガティブな気持ちを抱えながら進む。だが、初心者多数の状況故に経験者が無茶しないスピードを保てるよう気遣ってくれていることに気付いた。
「よぅ、調子はどうだ？」
　ルーク・ポーラスターに肩を叩かれて我に帰る。幸次は苦笑で答えるが、相原まゆが心配そうに見ていることに気付く。
「大丈夫だよ、先生。まだへばってないから」
「ならいいけれど……。もうちょっとペース落とす？」
　まゆの言葉に、幸次は首を振る。まだ始まったばかりだ。たしかになれないことばかりだけれども、早く布団で眠りたいけれど……。
（なんか、いいことがありそうな予感が今したんだよね）
　幸次は小さく笑った。

　一行が休みつつ進み3000ｍに近づいたとき、数名が異変に気付いた。
「あれは……雪煙？」
「いや、音がしない。それに硫黄の匂いがするな」
「水の音もするわね」
　幸次がほのかに見えた煙のようなものに嫌な予感を覚えたものの、一馬が首を振る。まゆもまた音のほうを見首をかしげる。その先を行くサキリは謎の草をマチェットで切り払い、その先をだれよりも早く見た。
「これは温泉じゃないか？」
「あら……温泉ねぇ」
　サキリの背後から蛇那伊が顔を出し、その温泉を確認する。と、そこは石などで囲わなくてもすぐにでも入ることができそうだ。それに幸いというべきか、草木に隠れている部分もあるため脱衣所に出来そうな場所もある。

　

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