出雲国怪奇譚｜リアクション

出雲国怪奇譚

　大体の地形を頭に入れると、修は下見に出かけた。どう考えても、村のすぐ南側の山地で怪物を足止めする必要がある。
「そっちには行かない方がいいぞ。この間の雨で山崩れがあった」
　案内の若者が修に教えた。
「いいことを聞いた！　その周辺は地盤が崩れやすいってことだ。オロチへの罠に使える」
「へえ、あんた知恵があるんだな」
「むしろ、この近辺で『危険な場所』を教えてくれ。ぬかるんだ湿地とか」
「わかった。俺はよく猟をするからわかるよ。気を付けてついてきな」
　修は案内された地形をじっと観察しながら、頭脳をフル回転させて知恵を絞る。
（俺自身は非力だ。オロチを倒すため、この土地に力を貸してもらうんだ）
　彼の頭の中には、作戦の概形が出来上がりつつあった。あとは、作戦に適した地形を探すだけだ。岩盤の脆そうな崖に囲まれた、狭隘な谷。修はうってつけの地形を見つけ、その場所にヤマタノオロチを誘い込むことに決めた。

　集落に戻った修は、村人たちに次なる協力を要請する。
「蛇は臭いや熱に敏感だ。ヤマタノオロチをおびき寄せるために、酒や食べ物を用意してほしい。人家の近くはかがり火をたいて、オロチが近づきにくくする」
　修は、迎撃地と決めた谷に酒や料理を運ばせ、広範囲に設置する。また、壮年の男たちには谷の周辺部に潜み、弓矢で援護してくれるよう依頼した。
　続いて、大蛇を無力化する罠づくりに取り掛かる。修のろっこん「分解」を使えば、岩の塊などを分解できる。
　修は精神を集中させ、崖の端の部分を「分解」した。2メートル以上の大岩を含む岩石や土砂が、轟音を立てて崩れ落ちる。そして進化能力を使い、大岩を崖の上に運ぶ。これを落とすことで、ヤマタノオロチの動きを止めるのだ。岩を固定するため、小さなサイズの石を周囲に敷き詰める。
「なんだ、あの力は……」
「やはり神の使いだろうか？」
　背後に聞こえる村人の声をよそに、修は少し離れた崖の下に向かう。今度は崩れないように、慎重に亀裂を入れる。オロチがこの下を通るタイミングで崩落させるつもりだ。
　次に、修は巨石が落下する地点を見積り、男たちに依頼する。
「このあたりに岩が落ちる。ここに落とし穴を掘ってほしい。ただし、ただ乗るだけでは落ちないくらいの強度にしてくれ」
「この人数で、オロチを落とせるほどの大穴を掘るのは無理だ。狭い谷底だから、崖の両端に棒や板を渡す。それを落ちるようにすれば、落とし穴に近くなる」
　村人に言われて、修は計画を微修正する。崖の中腹から、木の棒や板を向こう側に渡す。その上に布を張って、谷底を見えなくする。布の上に土や落ち葉をばらまくと、外からは浅い谷にしか見えなくなった。
「谷底にはとがった槍を設置してくれ」
「わかった。鹿や猪を狩るのと同じ要領だな」
　即席ながら、ヤマタノオロチを誘い込む罠が完成してきた。修は男たちを作戦の流れを確認する。
「皆は、俺が指笛を鳴らしたときに攻撃してくれ。危険な仕事だが、頼んだ」

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