＜愛光島日記＞アイコウジマ・ノクターン｜リアクション

＜愛光島日記＞アイコウジマ・ノクターン

　――カウント５：Yukiya

「理想郷に在る限り邪魔はさせない。愛しい、愛しいпринцесса」
　ゆらり、と立ち上がった
緑林透破は一歩ずつふらふらと幻影に歩み寄る。奇術士の姿をしたギア『CG』は不安げに透破を見上げているようだが、操作され幻影のギアを攻撃する。

＜理想郷……そう思うならまどろみ続ければいいよ＞

　幻影の柚春が嘯く。そんな彼女へと透破は口づけするかのような距離まで近づいていた。彼は、もう病んだ眼で、何かに憑かれたような眼で幻影の頬へと触れる。

　刹那、幻影は掻き消える。奇術士のギア、『CG』を端末で操作し幻影を攻撃したのだ。透破は、大きなため息をついて座り込むと、『CG』を恭しく掌にのせ、小さく笑う。『CG』は悲しげな顔で、透破の頬に触れた。
　だが、次の瞬間……１人と一体は派手に転がる。その正体は、乱暴に髪を束ねた少年、牛瀬刻だった。
「っ……！　大丈夫か、まこと！！」
　そう言って、牛モチーフで青ベースの、少年の姿をしたギアを手に取る。彼に迫るのは、１０歳ぐらいの少年と、牛とロボットをモチーフにした青いギアだった。
＜こっちが、ぼく。そっちはニセモノ＞
「違うっ！　お前がニセモノ、こっちがマスターだ！　いけっ！　ツノマル！！」
　刻が己のギアを仕掛ければ、幻影もまたギアを仕掛ける。空中で交差し、着地したとき、双方とも腕を負傷していた。だが、透破に気付いた刻は迷いなく彼の腕をとる。
「っ？！」
「ん？　透破すまない！！　大丈夫か？　……お前を安全なところまで送ったほうがいいな。逃げるようで癪だが、マスターならそうするだろうし」
　傍らのギアがこくり、と頷いたように見えた。刻は透破に肩を貸そうとするが、彼は振り払う。そして、立ち上がると刻に言った。
「詫びなんていらねぇ。……俺たちは大丈夫だ」
　それだけ言って立ち去る透破。彼が姿を消すころ、反対のほうから凛と玖音が姿を現す。その瞬間、幻影はギアとともに姿を消した。
「キザム！　どうしたの？！」
　凛が問えば、刻はわずかに目を細めて己のギアを肩に乗せた。
「思い出した。俺、何もかも思い出したんだ。自分が『ブルズ』ってことに」
　その言葉に、凛と玖音もまた目を見開いた。

　一体、この島では何が起こっているのだろうか……？

（終）

　

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