＜愛光島日記＞アイコウジマ・ノクターン｜リアクション

＜愛光島日記＞アイコウジマ・ノクターン

　――カウント４：Mio ／ Rin＆Kuon

（やったっ！）
　蒼凪ミオは内心で歓声を上げ、目の前にでたスコアに瞳を輝かせた。
　部活仲間は、鮮やかなミオの射撃に目を奪われてばかり。いつのまにか、周囲には彼女のプレイをみようと人が集まっていた。
　ミオが遊んでいるのは、ロボットを操縦して戦場を駆け、ミッションをこなしていくアクションゲームだ。意外と難易度が高く、最後のステージまで行ったひとは少ないらしい。
　しかし、彼女は初めて遊んだのにも関わらず高得点を連発している。それに周囲は驚いているのだ。
（自分の手足みたいに動くっていいなぁ！）
　夢中になって遊んでいたミオは、最終ステージも最高得点でクリアし、周囲から拍手で迎えられた。仲間には「凄い！　凄いよミオ！」と抱きつかれている。それを諫めつつも、興奮状態から落ち着いてきたミオは……少しだけ眩暈を覚えた。
（一体、何故……？　初めての筈なのに）
　眩暈の中、幻視かゲームの記憶か。戦場を駆る青い影が脳裏をよぎる。それがなにかわかろうとした時、少年の叫び声で我に帰った。
「えっ？　何？」
「あぁ、大方辻バトルに負けたんじゃない？」
「ここ、『カプギア・ホログラフィック・ナイト』の辻バトルが中継でみられるんだよね」
　ギャラリーの声で、理由を知ったミオは、指さされたスクリーンを見て息をのんだ。
　カプギア用のステージで、先ほどすれ違った集団の一人と、中学生ぐらいの少年が向き合っていた。少年の手に握られていたのは、大破したカプセルギア。それを見た時、彼女はなぜかそっと、自分の体を抱きしめていた。
（違う、違う、違う。でも、なんで急に体が……）
　ミオはしばしの間、その画面を見つめ続けていた。

　ようやく身体が動くようになったころには、画面は別のバトルを映していた。そこに映し出されたのは……同じ愛高の生徒だった。

　敵に近づかれた氷の魔女はチャージしていた『ニブルヘルム』を剣に変えて対抗する。再びチャージ体制に入れば、ある程度近づこうとした敵を頼光が処理してくれる。
　一進一退ともいえる攻防の中、徐々に敵の勢いを削ぎ密かに策を形に変える。
（チャージ完了まであと、少し……）
　
御津星凛は周囲の敵を見ながら手早く端末を操作し、状況を把握する。ある程度敵にダメージを与えられてはいるが、決定打には欠ける。だが、勝利への布石はすでに打てている実感があった。
「そこだ」
　鷹司玖音が操作した頼光が、的確な射撃で敵の退路を断つ。舞う氷の魔女のビット。ある程度一定の場所に集まるエンフォーサーたちのギア。
（（この距離は、私のモノ。……この動きは《私達》の……））
　氷の魔女が杖を掲げる。同時に発動する氷の世界。『ニブルヘルム』が展開される。そして、展開したビットで反射し、範囲を広げる。
「よしっ！」
　手ごたえを感じた玖音だったが、違和感がずっとぬぐえないためか表情はあまり明るくない。しかし、次の瞬間。頼光にどこからともなく飛んできた槍が刺さった。
「！　マスター！！」
　よくみれば、氷の魔女の一撃を逃れた１体が、ボロボロになりながらも頼光を討たんと身構えている。だが、それよりも膨大な情報が玖音の脳を揺らす。
　彼は思い出した。自分の正体を、あのギアの本来の姿を。
「玖音？　……っ！」
　その様子を見た凛もまた頭痛に苛まれる。同時に、目の前のギアを見て納得した。彼女もまた、何かを理解したのだ。
「凛……いや、トライアルβ！　加減不要だっ！　マスターたちを害した愚か者どもを駆逐するぞ」
「了解、ベレロフォン。ターゲットを、『喰らい尽くす』」
　二人の声とともに、二体の攻撃が最後の一体をつぶす。勝利者を呼ぶ声なぞ二人の耳には入らない。歓声も耳に届かない。
「マスター……。貴女はずっと……」
　凛はそっと氷の魔女を手に取り、目を細めた。
「私は、β。トライアルシリーズ、その一つ。貴女のギア」
　玖音――ベレロフォンと頷きあう凛――トライアルβは、互いのマスターを大切に手にしもう一度頷きあった。
　だが、その喧騒の薄れる中。２人はふと、同級生のことが気になった。刻と名乗ったあの少年。おそらく彼もダレかのギアの人になった姿なのだと。それもそれぞれのマスターにちょっと近い相手であると。
「ひどく焦っていた。……探す必要あるかも？」
「すこし気がかりだな……」
　二人は、人込みをかき分け、刻が進んだほうへと走り出した。

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