ニンジャ・サムライ・ジダイゲキ｜リアクション

ニンジャ・サムライ・ジダイゲキ

●時代劇ライフ

　落合まゆらは自室で朝食を済ませ、少し寛いでいた。窓に目をやると、外から光が差し込んでいる。今朝、海岸でボイストレーニングをしたときも晴れていた。

「今日はずっといい天気かな……ん？」

　ふっと、何かが自分のなかを通り過ぎるような感覚があった。少しばかり放心していたが、はっと目を覚ます。

「なんだったんだろう、今の」

　しかし違和感の正体にすぐ気づく。窓に近づいて外を見ると、まるで時代劇のような光景が広がっている。そして自分の格好も町娘のそれになっていた。

「え、どういうこと……？」

　不安を覚えながら街並みを観察する。
　建物が木造になっていたり、道行く人々は和装を纏っている。ただ道の形は見慣れたもので、ここは寝子島だと分かる。

「一応、寝子島、なのかな……？」

　それが分かって、まゆらは少し落ち着く。
　自分のいるアパートもどうやら長屋になっているらしい。寝子島全体がまるで時代劇の舞台になったかのようだ。

「……あ、そうだ。仕事に行かなきゃ」

　まゆらは気を取り直して、職場へ向かう。
　着いた先は参道商店街の茶屋。まゆらは仕事着に着替えて接客に励む。

　すると岡っ引きの熊吉がやってきた。注文をしてから、椅子に腰掛ける。

「まったくあいつはどこにいるんだか」
「例の義賊かい？」
「ああ」
（義賊？）

　店主と熊吉が話す内容が気になり、まゆらは尋ねた。
　この島には活動的な義賊がいるらしい。正体不明で、分かっていることはほとんど無いという。ただ金持ちの屋敷を狙っていることは明白で、標的にされていそうな場所を見張っているらしい。

「なにか気づいたら教えてくれ」
「はーい」

　お茶を一気に飲み干すと、熊吉は店を出ていった。
　その後ろ姿を見送ると、ちょうど入れ違いに侍が入ってくる。見たところ、それなりにイケメンだが印象が薄い。口数も少なく、黙々と頼んだ品を食べている。

「……時は近いな」

　侍の独り言が気になったものの、店の忙しさに追われて頭から抜けてしまった　店が落ち着いてきた頃に、ふとその事を思い出す。しかし既に侍はいなくなっていて、尋ねることもできない。少しもやもやしたものを抱えつつ、残りの仕事を片付ける。

　仕事は日が暮れる少し前に終わった。店主の勧めで寄席を楽しみ、歌舞伎見物も満喫した。

「あー楽しかった。そろそろ帰ろう」

　そう思って足を自宅へ向けたそのとき、何やら騒がしい声が聞こえた。どうやら歌舞伎役者の有力なタニマチが盗みの被害に遭ったらしい。その話に辺りが一気にざわつく。

　そのときだった。

　屋根の上からふわっと黒い影が降り立った。戸惑う人々をかき分けて、その影は走り去る。

「待てー！！」

　それを岡っ引きの熊吉が追いかける。
　まゆらは偶然にもその大捕り物の現場に居合わせた。

　しかし驚きも束の間。
　なぜか彼女も義賊の一味として追いかけまわされる羽目に。
　数多の勘違いが重なった結果だろうか。

「待てえええ！！」
「あたしは関係ないんだけど！？」

　まゆらの叫びは届かず、逃げるしかなかった。
　
（な、なんでこうなるわけ……？）

　一心不乱に義賊と一緒に走り続け、ようやく逃げ切った。
　どれほどの距離を走ったか分からない。まゆらは肩で大きく息を吸い込む。

（でもなんだかそれはそれで楽しいからいいかな）

　まゆらは疲れを感じつつも、どこか充実した気持ちになった。

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