喫茶「セピア」営業日誌：「猫の日」展覧会｜リアクション

喫茶「セピア」営業日誌：「猫の日」展覧会

「ありがとぉございましたぁ～！」

　にこにこと接客する万条幸次は、飼い猫である花遊の写真集が売れるとことさらに喜んだ。
　普段から猫探しにカメラを抱えて出かけることが多いけれど、今回のモデルは花遊に絞った。それも家に来た子猫の頃からを追った集大成だ。うちの子が褒められて気分の良くない飼い主がいるわけない。
（帰ったら花遊にも報告して～、今日の写真も撮らせてもらわないとなぁ）
　背面の壁に貼った、B5サイズの大きい写真の花遊を見て、へらりと笑う。うん、この花遊も可愛い。
　周囲も猫をテーマにした力作だらけで、見ているだけで和んでしまう。人の流れが落ち着いたらカフェメニューも食べに行こうか。
「おやぁ、恵御納さんは展示だけだったんだねぇ」
　ふと反対側の飲食スペースを見やると、相手のスマホを熱心に覗いて輝かんばかりの笑みをしている夏朝がいた。ねこみゅ仲間の彼女のことだ、きっと猫の写真でも眺めているのだろう。
　その視線に気づいたのか、夏朝は顔を上げた。準備の時に軽く挨拶をかわした程度で、まだ幸次のブースにゆっくり訪れてはいないかったことを思い出す。
　夏朝は知人が参加していることを修に伝え、修もオムニャイスを食べ終わっていたことから一旦席を譲ろうかと二人で会計を済ませて展示スペースへと向かうことにした。
「万条君は展示じゃなくて販売だったんだね」
「そうなんだ～、オススメは『花遊日和』だよぉ」
「写真集かな、中を見ても？」
　どうぞ～と勧められるままにパラリとめくれば、愛くるしい子猫の姿。最初はカメラをおっかなびっくり警戒していた様子から、だんだんと慣れて愛嬌を振りまきリラックスしてくるのは猫を飼う修にも共感できた。
「1冊頂いていくよ。こっちには猫が映ってないようだけど……」
　修が会計をするならばと他の作品も目を通そうとすると、目にとまったのは『うごく！　花遊日和』と値札の書かれたＤＶＤだ。横にQRコードも記載されており、購入前にMewTubeで予告編が試聴できるようになっている。
「そっちは猫目線で寝子島を散歩している様子を撮影した動画なんだぁ」
「そうなの？　猫さんの首輪にカメラをつけて……とか？」
「あっ、うん！　そんな感じだねぇ……」
　修は暫し考える。自身も撮影をするのでカメラのことならわかるつもりだが、猫が違和感を覚えないようなサイズで、アクティブな動きについて行けるものとなると、相当に高価か安価でしっかりと固定しているかのどちらかのはず。後者であれば、猫は相当に嫌がっただろう。
（けれど、写真集の様子を見てるとそんなことをする人でも無さそうだしな）

　ちらり。

「いや、そこら辺の猫に無理やりカメラをつけたわけじゃないんで！」
　これ以上は企業秘密。
　そう言わんばかりの幸次には喋れないわけがあった。

（花遊の名前を使ってるけど、撮影したのはろっこんで変身した俺なんだよぉ～！）

　そんなことを、誰に聞かれるともしれない場所で口にすることも出来ず。幸次は二人のなんとも言えない視線に心が痛かった。

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