喫茶「セピア」営業日誌：「猫の日」展覧会｜リアクション

喫茶「セピア」営業日誌：「猫の日」展覧会

　時折陽気をのぞかせる、それでもまだ風の冷たい2月下旬。
　各地では、とくに猫愛好家の間では頬を緩める日がやってきた。

　2月22日――いわゆる、"にゃんにゃんにゃん"と日本語の語呂合わせで猫の日に定められた日だ。

　猫の多い寝子島で、その日を楽しむ観光客も多い中。旧市街側の九夜山付近にある喫茶店「セピア」では『猫の日展覧会』が開催される。
　動物好きの八神修は、馴染みの店で猫のイベントが開催されると聞き、いの一番にやってきた。
（さて、どんな商品が並んでるかな？）
　猫企画なので、気に入った商品は惜しみなく買えるよう予算も多めに持ってきた。もちろん長居できるようにお腹も空かせている。猫の会話で弾んだ時用に、飼っている猫（のべ17匹）の写真もスマホの中でしっかりフォルダわけされており、楽しむ準備は万端だ。

　大正浪漫を感じさせる内装の古き良き喫茶店が、ねこったーの拡散力を経て賑やかな1日を迎えた。

　1階の喫茶スペースでは展示コーナーも設けられ、続々と猫好きが集まった。中には一見さんもいたのだろう、ぐるりと店内を一周しては混雑具合に遠慮して時間を改めようとする者もいる。
　老若男女の集まった店内で、ろっこんによって二十歳ほどの姿に変身した大田原いいなこと『獅尾煉華』を名乗る女性は、注文の殺到する状況をこれ幸いと厨房にこもっていた。
　彼女が考案した猫をモチーフにした料理は見目のかわいさから注文が相次ぎ、鎮目悠弥が下地を作りトッピングを煉華が行うという連携作業で上手く注文を捌いていたのだが。

「……姪御よ何トンチキな事やってるんだい？」

　遅れてやってきた出品者の受付をしようと厨房から出てきたとき、ピシッと聞こえてきそうな程に笑顔を引きつらせた。段ボールを抱えてやってきたのは、宇佐見満月だ。
　しげしげと見つめてくる満月に耐えかねて、煉華として装っている口調も忘れていいなは小声で応対した。

「儂がここでばいとしておるのは内緒じゃ。誰にもじゃ、断じてバラすでないぞ叔母上！」
「ハァ？　バイト？　何か欲しいもんでもあるんかい？　硯いろはの色紙は貰ったんだろ？　他に何が――」
「満月さんっ！　それではこちらに作品を並べてくださいねー」
　事前受付していた出品者の名簿を素早く確認すると、煉華は『儂の事は触れてくれるな』と目で訴えつつブースへ案内する。
「……話逸らしやがったな馬鹿姪御」

　はぁ、と盛大なため息を一つ。
　満月は姪が無茶なことをやらないかと心配になって仕方ないのだろうが、いつも無理難題をふっかけるのは満月自身だと言う自覚はないのかもしれない。

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