ありがとうの伝えかた｜リアクション

ありがとうの伝えかた

　参道商店街には隠れた名店がたくさんある。
　通りを少し外れたところの雑貨店に隠れ家のような御茶専門店、あんこたっぷりのたい焼き屋に宝の地図だって売っていそうな古書店、宝石みたいなケーキの洋菓子屋に花のような練り切りの和菓子屋に。
「日暮さんに喜んでもらえそうなものって何でしょう？」
「食器棚の奥に酒瓶ようけ隠しとるんは知っとりますけど……」
　羽織の袖を口元にあてて考え込む夕の傍ら、珠を頭に乗せたこんがハーイと元気よく挙手する。
「はい、こんちゃん」
　智瑜に指名され、こんはくすぐったそうに笑った。
「ちず！」
「地図？」
　うん、とこんは大きく頷いて地面を指さす。
「ここの地図！　おいしいごはん屋さんとかおやつ屋さんとか、たくさんのってる地図がいい」
「うん、ええね。うちもそれがええと思います」
　切れ長の黒い瞳をぱちりと瞬かせ、夕は昼下がりの参道商店街をぐるりと見回す。
「あのひともうちも、この島が好きです。けど、まだまだ知らへんとこばっかりで……地図に、智瑜さんの知っとる美味しいごはんのお店やら綺麗な景色の場所やら書き込んでもろたら、きっと何よりのプレゼントです」
「それじゃあ、本屋さんですね」
　智瑜はこんと夕と視線を交わす。三人揃って嬉しい笑みを零し合う。
　寝子島の大きな地図を買おう。カラフルなペンとキラキラしたシールと、それから可愛い猫の付箋も買おう。そうして家に帰ったら、みんなで宝物を隠すみたいに地図へたくさん印をつけよう。
　そうと決まれば、と真っ先に駆けだしたこんが、不意にくるりと踵を返して駆け戻ってきた。顔色を変え、智瑜と夕の手を引く。
「こんちゃん？」
　きょとんとしかけて、智瑜も気が付いた。道の向こうから、野菜満載の段ボール箱を抱えた日暮が歩いてきている。
「わっ、わわっ」
　ここで出会ってしまっては、サプライズパーティのことが知られてしまうかもしれない。焦る智瑜の手をこんが引く。道端の真っ赤なポストの後ろに身を隠す三人と一匹のことなど気づきもせず、日暮は手にしたメモの地図を確かめ確かめ、角を曲がり路地の向こうへ消えた。
「こんちゃん、日暮さん行った？」
「そーっと見るんよ、そーっと」
「……うん、いった」
　ポストの影に身を寄せ合い、三人は小さな声を交わす。みんなで唇に人差し指を立ててお互いの声を潜め合う。
「気付かれるわけにはいきません」
　智瑜の大真面目な声音に、最初に我慢できずに噴き出したのはこんだった。次いで智瑜がくすくすと笑い、夕が肩を震わせる。こんの頭の上で珠がニャアと鳴く。

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