瑞々しい白菜に青々とした春菊に水菜、鮮やかな色した人参に甘味を蓄えたキャベツ。
「ほな、行ってきます」
エプロンに防寒着姿で段ボールいっぱいの野菜を両手に抱え、
古家 日暮は『宮祀青果店』の店先に置いたスツールに腰かける老翁に声を掛ける。
今にも雪がちらつきそうな空を仰いでいた宮祀青果店の店主が穏やかに応じたとき、
「日暮さん!」
店の奥から明るい声と共、黒髪の少女──
宮祀 智瑜が飛び出して来た。
「配達ですか?」
「うん」
「行ってらっしゃい!」
「うん、行ってきます」
近場だからと配達用の自転車を使わず歩いて行く日暮を見送りながら、智瑜はちょっと首を傾げる。お店でバイトしてもらうようになった当初から、日暮はどこに配達に行くにも徒歩を貫いている。
(もしかして、自転車が苦手?)
そう言えば、日暮が以前暮らしていた黄昏の世界では自転車を見たことがなかった。
外の空気に当たった途端にかじかんで紅くなる指先に息を吐きかけ吐きかけ、智瑜は店の脇に置いた自転車を見遣る。
一緒に暮らす祖父が昔から使っていた自転車は、古いけれどとても頑丈でどんなに重たい荷物を載せてもへっちゃらだ。
「お祖父さん」
二月の寒さにも負けず花咲く桜にも似て柔らかで鮮やかな笑顔で、智瑜は家族を振り返った。ぱたぱたと近寄り、皺深い祖父の耳元に唇を寄せる。
「実は、今日は──」
智瑜の言葉をうんうん頷いて聞いて、祖父は智瑜と同じ黒い瞳をくるりと丸くした。
「だから、──」
続く智瑜の言葉に祖父は大きく頷いて返す。行っておいでと少し悪戯な、たくさん楽し気な笑みを向けられ、智瑜は飛び跳ねるように頷いた。
「行ってきます!」
準備万端、いろんなものを詰め込んだ鞄を自転車の前籠に入れ、身軽くまたがる。冬の冷たい風もなんのその、元気いっぱいペダルをこぎ始める。
(日暮さん、びっくりするかな、喜んでくれるかな)
今日は日暮の誕生日。
ついこの間、ふと思い立って聞いてみて、
──ええと、せやなあ、……豆まきしとったんよう覚えとるさけ、なんやっけ、節分? うん、節分の生まれてことにしとこ
そんな返答を得た。思案顔をしていたのが少しだけ不思議ではあるけれど、本人がそう言うのだから間違いはないのだろう。
となれば、やることはひとつ。
(夕さんとこんちゃんと、珠と)
シーサイドタウンの一角にある古民家で暮らす日暮の『家族』たちの顔を思い浮かべ、智瑜は大きな黒い瞳をわくわくと輝かせた。
(みんなでサプライズの誕生パーティ!)
こんにちは! プライベートシナリオのお届けに上がりました!
初めてのプラシナ、どきどきしております。阿瀬春です。
宮祀智瑜さん、ご指名ありがとうございます。しかも日暮の誕生日をお祝いしていただけるとか! NPC冥利に尽きるというものです。
めいっぱい楽しく描かせて頂きます、どうぞよろしくお願いいたしますー!