２月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

２月の☆ハッピーバースデー

●かつての記憶とこれから先のこと

　深縹露草は今日も短期アルバイトを終えると自分のアパートへ帰ろうと夜道を歩く。穏やかな風が仕事明けの露草を労うように撫ぜる。

「夕食の材料を買って帰……」

　そう思って店に向かおうとした矢先、携帯が震えるのを感じた。

「おや？　携帯にメールが……」

　確認するとメールが届いていた。送信相手は本土（日本）に住む両親と姉からだった。

「うーむ……」

　露草は内容を見る前から難しい表情を浮かべる。文面の予想はできるものの、指がためらっている。
　両親に電話やメールで連絡は取っているし、仕送りもしている。年末年始は甥や姪にお年玉を渡すためにも帰省しているが、それ以外では帰っていない。
　両親や姉一家は優しいし、露草はこれといった不満は無かった。ただ彼らのもとに帰るたびに必ず言われることがあった。

『木天蓼大学を受けるのなら、学費くらいは自分たちを頼れ』と。

　彼は小さくため息をついた。

（「大金を自分に使われる事」には苦手意識がありますし……）

　トラウマは簡単には消えない。老夫婦、柿の木、治療費……。
　明確に思い出せない記憶が今も露草のなかに残っている。それだけではなく、露草の父母は結婚前に苦労していたと親戚から聞いているのも影響している。

（姉さんも大学に行ってますし、両親の老後も考えれば私のことでお金を使わせたくは……）

　どれほど携帯の画面をにらみ続けたか。いよいよ決意して、メールを開封する。
　内容は『お誕生日おめでとう』という文面から始まり、祝福する言葉が並ぶ。しかし画面を追っていくと、それだけではなかった。

「まぁやっぱりありますデースね……」

　予想はしていたが、大学に関する文言をみると、ふたたび難しい顔になる。ただ、一方的に押し付けるつもりはないらしい。

『露草の事情も考えて話し合いたいし、誕生日の祝いもプレゼントしたいので、機会を見て一度帰省してほしい』

　そう書かれたメールを読み進める。そして最後は祝いの言葉で締められていた。メールを最後まで読んで、露草は大きく息を吐いた。

（祝いの礼は言いたいけれど、どう返事をしたものか）

　このまま立ち尽くしていても仕方ない。
　夕食を作りながら考えようと、店に向かって歩き出す。

「……夕飯の材料とケーキを１つ買って帰りましょうか」

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