彼または彼女の事情｜リアクション

彼または彼女の事情

　私こと雨梨栖芹香は不良である。
　不良とはなんぞや？　って定義を語るもやぶさかじゃあないけれど、ま、ここでは私が『マタ工の生徒だから』と述べるにとどめておこうか。
　なんでかってまあ、目の前のこの修羅場を見れば一目瞭然ってもんだろうから。
「おっし、３人目！」
「てってめー、よくもやりやがったな！」
「囲め囲め！」
「女のクセにチョーシこいてんじゃねーぞコラァ！」
　本土から遠征してきたとかいうご苦労さまな不良たちに、しこたまパンチぶちこんでやる。多勢に無勢？　関係ないね、だって喧嘩は不良の華っていうじゃない？
　まあでも、私が余裕でいられるのは、相棒の存在ってやつによるところも大きいかもね。
「今時女がーとか男がーとか、流行らないよ。男女同権って言うだろ？　なあパンＴ……痛だだだだだ」
「そのアダ名で呼ぶなと何度言ったら分かるのかしら？」
　ぎりぎりと食い込むアイアンクローのお味もすっかりお馴染みだ。っつーか超痛い！
　あいつはとっくに５人目を倒していたけど、ちょっと軽口叩けばこのとおり。吉住志桜里は実に平等な女というわけ。
　もっとも、相棒だなんて口に出して呼ぶこと、ゼッタイ無いけどね。
「まったく。誰のために買った喧嘩だと思ってるの？」
「感謝してるって。ほら、次が来た！　さあ行けしおパン、おあ痛だだだだだ」
「まーだ躾が足りないようですねー？」
「割れる割れる、割れるから。出ちゃうから」
「て、てめーらふざけてんじゃねーぞコラァァァ」
　怒号もなんのその。ちょっとばかり声張り上げたくらいでヘコまされるお嬢さんなら、私はこいつと付き合っちゃいないと思う。ぶん殴ったりぶん殴られたり、すり潰されたり折られたり、ぶっ飛ばされたり……あれ、私ばっかりやられどおしじゃないかこれ？
　まあとにかくそんな間柄。悪友だからこそ、こいつとつるむのは楽しいんだろうな。
　なんつって、ね。

「これで、８人目！」
「おー、やっぱやるじゃんパンＴ……ああいやほら、次次！　次が来るってば！」
　まったく、何が気に入らないんだか。
　パン（ツが見えようが力任せに暴れ回る）Ｔ（＝レックスのようなデカ女）。こんなにピッタリなアダ名もないだろうに。言うじゃないか、名は体を表すってさ。

「時おり思うのだけど。あなたってＭなの？」
「私をごりごりに潰しながら言うことか？　それ」
　不良たちを残らず潰したアルミ缶みたいに伸したら、矛先はやっぱり私。
　まあ挑発するのも私なんだけどね。おかげで毎度、踏み潰されるネズミの気分が味わえるというわけ。
　私のろっこんが無きゃ、何度死んでることか。
「まるで懲りないから、踏まれるのが好きなのかと思って」
　そういってこいつは笑う。まったくなんて笑い方だ。いかにも温厚ってツラして塵ほどの慈悲もない。
「ま、それでこそパンＴってところかな」
「うーん、やっぱりこうされたくて言ってるんじゃない？　そうなのよね？」
「痛い痛い痛い」
　こんなのすぐ直るから、って分かってるからこそなんだけどね。
　それでも超ーーー痛いのに変わりはない。そこんとこ、分かってるのかねこいつは？
　とはいえ結局のところ、そう。ギブ・アンド・テイク？　持ちつ持たれつというか。からかいたい私、ボコしたいパンＴで、遊びの需要と供給は成立してるってわけ。
　だからＭではないんだなこれが。
「ッス、あいつらッス！　やべーんッス、女のくせに鬼つえーんスよ！」
「ほっほ～う？」
　うはあ。時代錯誤にも程がある。いかにもザ・ヤンキーって連中が助っ人に来たらしい。ウチのガッコ以外にもまだいるんだな、あんなやつ。
「こしゃくな女どもめ。しゃらくさい！　ワシが本物の漢っちゅうモンを教えてやろうかのうッ！」
　何時代の人だお前は。
「ん～。どーする、パンＴ？　私、この後ツーリングいこうと思ってたんだけど。お前も来るだろパンＴ」
「ＯＫ、あとで２捩り追加ね。そんなこと言って、私は体のいい広告塔代わりってわけね」
「まあいいじゃん」
「いいけれど」
「お、お前らワシを無視すなああああ！」
　なんだかんだと手が早いのはこいつのほう。哀れ不良のボスはあっという間にミニマムサイズ、ぷちっと踏み潰された。
「んじゃま、ちゃちゃっと片付けて出かけるとしようかパンＴ、痛い！！」
　打てば響くとはこのことだ。
　これだから、こいつといるのは面白い。
　これだから、こいつとつるむのはやめられない。
　ってね！

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