アクアアルタで泳ごう！｜リアクション

アクアアルタで泳ごう！

☆お魚になって、彼と

　三折部朝衣が目が覚ますと、なぜか潮の香りが鼻につきました。
「……？」
　ここは旧市街のやや奥まったところにある自宅。
　海からは遠く、たまに潮風が吹き付けても香りはそんなに強くはないはずです。
　首を傾げながら自室の窓から外を見下ろすと、信じられない光景が広がっていました。
「町中が水浸しに……あ、これってもしかすると……」
　
　アクア・アルタ。
　それは季節風がもたらす異常潮位現象。
　朝衣は、去年にも同様の現象が起こったのを思い出しました。
「まさかもう一度これが来るとは思わなかったわ」
　サーフィンできるほど波は高くないけれど、のんびり水中散歩くらいはできそうな気がします。
　今日はぽかぽか陽気なので、Ｔシャツとショートパンツ、それにレインブーツを履いて外に出ました。
　ちなみに服の下には水着を着用済みなので、準備も万端だったりします。
「綺麗……」
　水は膝に届きそうなほどで、透明感が半端ではありません。
　海岸へ向かって歩いているうちに、水に入りたくなった朝衣は、レインブーツを脱いでちょっとばかり潜ってみることにしました。

　頭を水に入れた瞬間。
（えっ？）
　視界が急に変わり、なぜか魚に変身してしまった自分に気づいたのでした。
（なぜ……？）
　と思うけれど、何しろここは寝子島だし、と納得してしまう朝衣でした。
（息苦しさもないし水の冷たさも心地よくて……魚だから当然なのかな）
　思うままに泳ぎ、水中散歩を楽しむことにしました。

（頭の上にボートがあるって不思議な感じね……）
　充分に水中散歩を満喫した朝衣は、そろそろ戻りたいと思いました。
（水面に上がればいいのかしら？）
　そう思いついて試してみると、いつの間にか人間の姿に戻っていました。

　と、目の前に浮かぶボートの上に、見覚えのある男性がいました。
「遥人？　どうしてここに？」
　それは、レストランで働いている、恋人の住沢遥人でした。
「朝衣！　偶然だね、この水でお客が来ないだろうからって、うちのレストランが出店を出したんだ。食べていかないか？」
　朝衣は数分前まで魚だったなど嘘のように、にっこりと微笑みました。
「嬉しいわ。ちょうどお腹がすいてたところよ」
「それは良かった。魚料理と肉料理、どっちがいい？」　
　遥人が用意してくれた食事に舌鼓を打ちつつ、朝衣はしみじみ言いました。
「やっぱり人間っていいわね」
「どうしたんだい、急に？」
「だって、こんなに美味しい遥人の料理が食べられるんだもの」　

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