アクアアルタで泳ごう！｜リアクション

アクアアルタで泳ごう！

☆アクア・アルタの夜

　夢宮瑠奈は、素直に目の前の出来事を受け止めました。
「また、アクアアルタの日がやってきた」
　前回は驚いたけど、瑠奈はもう、この島にアクアアルタがあることは当然のように感じています。
（今ここにある真実。それは知識を超えるのだ）
　と思いながら、レインブーツを履いて外に出ました。

　レインブーツをパシャパシャしながら、寝子島街道を歩きます。
　人々はこの特別な夜に人工的な灯りを灯すことを好まなかったので、家々の電気も、ビルのネオンも消えていました。
　満天の星空が水面に映って、星の海に包まれているようです。
（隣に誰かがいればと思うけれど）
　去年は昼間にみんなとはしゃいだけれど、あいにくと今日は一人。
　それでも、世界はとても澄んでいて。
　ゴンドラに灯されたヒカリはとてもあたたかでした。

　瑠奈はなんだか楽しくなって、少しずつ早足になりました。
　パシャパシャ音が大きくなって、早くなっていきます。
　リズミカルになって、軽くなっていき――
　そしてふいに音が消えた時、瑠奈は人ではなくなっていました。
　そこには、一頭の美しいイルカの姿がありました。

（体が軽い）
　とても速く泳げる気がしました。
　瑠奈は沖へ鼻を向けると、強く強くドルフィンキックをしました。
　海と一体化していくような感覚の中、スピードを上げていきます。
（なんて楽しいのだろう。この不思議な島は、時々すごい贈り物をしてくれる。
　なんて素敵なんだろう。あたしはそんな不思議と一緒に暮らしているんだ）
　いったん深く潜って、上に向かって一気にジャンプ。
　月夜をバックにキメポーズ！　
　月の光が、肌で感じられるものだなんて知りませんでした。

（もし誰かが見ていたなら、それはどのように映るだろう？）
　周囲に人影はありませんでしたが、瑠奈は想像しました。
（イルカが空に向かう姿だろうか。それとも幻の少女が星の海に揺蕩う姿だろうか）
　どっちも、素敵よね、と思いながら、瑠奈は泳ぎ続けるのでした。

　海に向けて、風が吹いて。
　海の水が少しずつ少しずつ、引いていきました。

　朝までには瑠奈は寮に戻らなくてはいけません。
　けれど、この不思議な夜の中で。
　もう少しだけありのままで、この世界にいたいと思うのでした。

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