ことのはあそび　～春隣～｜リアクション

ことのはあそび　～春隣～

●時には古典落語のように

　誰にでも嫌いなもの、怖いものがある。
　何か嫌いなもの、怖いものがあるかと問われたら、旅鴉月詠は何と答えるだろう。
「私に怖いものなんてない」
　とキッパリ答えるかもしれない。
　そんな月詠が怖いものはいいね！だった。

　いいね！　とは何か。
　ニャースブック、ねこったー、MewTube、ネコネコ動画等のソーシャルネットワークで特定のコンテンツが好き、楽しい、支持できるといった意志を示すためのコミュニケーションソフトウェアの機能のことだ。
　好意的な機能が怖いとは、どういうことか。

「みうつべにアップしたレジンアクセサリー作りの動画、いいね！　が増えているね。怖いね」
　怖いねと言いつつ、コメント欄を拝見。
　綺麗な仕上がりですねといったコメントが多いのに、何が怖いのか。
「ねこったーにアップした絵にもいいね！　が。怖いね、怖いね」
　淡々と怪談話をしているかのように呟く。これも何が怖いのか。
「ネコ動にアップしたイラスト作成過程動画、弾幕しかけているね。怖いね」
　上手！　神絵師！　といったコメントでイラストが見えなくなりかけている。まさに弾幕。
　これも何が怖いのか。
「ニャースブックにアップしたアクセサリ、いいね！　が多いね。怖いね」
　これも高評価なのに何が怖いのだろうか。まったくもって謎である。
「こんな怖いものは見なかったことにしよう」
　目が疲れた、と見続けるのをやめた。

　少し休憩しようと、月詠は部屋の窓から降り続ける雪を見ながら紅茶を一口。
「濃いめのお茶が怖い」
　ふぅ、とため息をつきボソリ。
　紅茶、濃かったですか？　と淹れてくれたメイドが言うので、月詠は「いつも通りだけど」と下げさせない。
　先程言った「濃いめのお茶が怖い」とは何なのか。
　紅茶を下げるのをやめたメイドに「まんじゅうこわい、って知ってるかい？」と尋ねた。
　饅頭が怖いと言いながらも食べていた男の話、というのはメイドは知っているが、それと濃いお茶の関係性がわからない。
「まんじゅうこわいのオチがね、このへんで、濃いお茶が1杯怖いなんだよ」
　要するに、饅頭を食べ終わった後に濃いお茶が飲みたいということだねと付け加え。

　いいね！　を怖いと言い続けていたのは、月詠なりの「楽しんでもらえるなんて嬉しいね」という表現なのかもしれない。

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