ネコジマ・シャンデリア・トレイン｜リアクション

ネコジマ・シャンデリア・トレイン

●綺麗のかたち

　青山絢は授業を終えると、ノート類を鞄に入れて帰路に着いた。

「今日は帰ったら何しようかな」

　家事や宿題など、候補は色々浮かぶ。
　しかし頭のなかを堂々巡りするだけだった。結局何をするか決まらないまま家に着いてしまった。

「ただいま」
「おかえり！」

　絢がいつものように学校から帰ると、どこかテンションの高い水谷真優理が出迎えた。

「機嫌がいいみたいだけど、なにかあったの？」
「実はね、今日はいいものもらったんだ」

　そう言って、真優理は満面の笑みで『ネコジマ・シャンデリア・トレイン』のペア招待状を見せた。どうやら終電後に特別な列車が走るイベントで、見るだけでなく乗車もできるらしい。

「ね、絢ちゃん、シャンデリア・トレインだって。面白そうじゃない、ね、絢ちゃん、行こっ！」
「うーん……確かにシャンデリア・トレインは綺麗、と思うけど……」
「だったら見てみようよ！」
「……わかった」
「やった！」

　真優理は心の底から嬉しそうに喜びの声を上げた。
　絢も反対する意思は見せたものの、結局押し切られてしまった。

（そういえば、この前のひまわり迷路の時もそうだったような……）

　そんな絢の心の声は、全力で楽しそうな真優理には聞こえなかった。

　シャンデリア・トレインが走るのは終電後なので、
　その時間に合わせて、それなりにお洒落をすると２人で家を出た。

（終電を終えた線路を走るなんてどんな感じかな……）

　絢はそんなことを思いながら歩いていると、寝子島駅が見えてきた。そこは普段から想像できないほど、まばゆく彩られていた。まるで別の世界へやってきたように思えるほどだった。

　そしてしばらく待っていると、その列車は現れた。
　線路上も電飾を施したオブジェがいくつもあり、その光のなかを列車が走ってくる。寝子電そのものも内装や外装に電飾を配し、それはまさに動くシャンデリアのようだった。列車に乗ると、きらびやかな内装が雰囲気を盛り上げる。

「外からも少しは見えてたけど……確かにこれは綺麗ね！」
「うん。とても素敵」
「水晶を砕いて光を纏わせたら、こんな感じになるのかな？」
「そう、かもね」

　真優理の例えを想像していると、不意にシャッター音が聞こえた。音のほうを見ると、真優理がデジカメを向けていた。

「いい顔撮れたー！」

　元気な真優理の声。デジカメの画面で写真を確認すると、さらにはしゃいだ声をあげた。

（絢ちゃんの美しさと可愛さには、シャンデリア・トレインであってもかなわない）

　そんな思いを抱いているからか、本能のようにシャッターを切り「自家製『青山絢写真集』」を作っている。それは絢もしっているので、やれやれと苦笑いを浮かべる。それでも真優理の求めるまま視線を向けたり少しポーズをとってみる。
　その姿を逃すまいと真優理はシャッターを何度も切った。

（乗客のなかで一番はしゃいでるのはやはり真優理さん。でもそういうところ、かわいらしいから好き）

　そんな心を知る由もなく、真優理はデジカメ片手に楽しそうだ。
　そうこうしているうちにお腹が空いてきたので、２人は食事をとることにした。

　絢はサラダチキンとにゃごの紅茶。真優理はニャンパンとあさりのパスタ。
　注文した品が届くと、２人はさっそく食べ始める。

「おいしい！」

　真優理は素直な感想を口にした。絢も同意するように頷く。美味しい料理と、車窓から見える煌びやかな世界。会話を弾ませるには十分だった。
　学校のことや、演劇部のこと、最近あった出来事など。本当に他愛のない会話を、星ヶ丘駅に着くまでずっと話し続けた。

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