ネコジマ・シャンデリア・トレイン｜リアクション

ネコジマ・シャンデリア・トレイン

●猫たちとの旅

　恵御納夏朝は寝子島駅でシャンデリア・トレインが来るのを待っていた。寝子電の終電が走り終わった後にやってくる予定らしい。夏朝は自分のところに届いた招待状を確認する。

「いったいどんな電車がくるのかな？」

　すでに路線上には多数のオブジェが配置されていて、色とりどりのイルミネーションがそれらを鮮やかに照らす。
　ただ終電後だと、どうしても夜遅くなるため、事前に寝子島高校と桜花寮に説明して乗車許可を取った。特段難しい交渉もなく許可をもらえて安心している。

　夏朝はここへ来るときに普段使っている鞄と、キャリーバッグを持参していた。キャリーバッグは中が見えにくいタイプなのに、さらに布をかぶせていて外からは中の様子が全く分からない。

（……ごめんね、寝子電に乗るまで大人しくしててね）

　そうしてしばらく待っていると、列車がやってきた。
　想像以上にきらびやかな電飾が、日常とは違う雰囲気を感じさせる。ただ眩しいのではなく、まさに飾り付けられている。夏朝は列車に乗ると、隅の席を選んで腰を下ろす。ここなら周囲からは見えにくく、隠れやすい。

　そして乗務員にチーズリゾットを１つとニャンタ各種、さらに猫用のおやつを２つ注文した。
　乗務員はすぐお持ちしますと言い残し、その場を去った。しばらくして乗務員が注文した品を夏朝のもとに運んでくる。

「ありがとうございます」

　夏朝はそう言って、去っていく乗務員を見送る。その姿が完全に見えなくなってから、そっとキャリーの蓋を開ける。
　キャリーの中にはレンズ・キャッツ『おはぎ』を模して作った縫いぐるみ。そしてキャリーの底に敷いた布の下には『レンズ猫のおはぎ』が隠れていた。

「おはぎちゃん達、おまたせ」

　運ばれてきた料理を猫たちの近くに置く。
　縫いぐるみの『おはぎ』は食べられないが、お供えの気持ちでそっと置いておく。

（……魂的には、食べれてるといいな）

　一方レンズ猫のおはぎは、おやつをおいしそうに食べている。
　そんな猫たちを眺めながら、夏朝もチーズリゾットとニャンタを満喫する。乗務員や車掌が来るたびに隠れてもらいながら、外の景色を一緒に眺める。光のなかを走る列車は、雰囲気も相まって特別な空間に感じられた。

（楽しんでもらえてたら嬉しいな）

　寝子島の風景は見慣れていると思っていた。
　けれど、ここから見える光景はどこか別の世界のようだった。
　その世界を夏朝は猫たちとともに星ヶ丘駅に着くまで眺めていた。

このページにイラストを設定する