8 years after ～8年後の世界～｜リアクション

8 years after ～8年後の世界～

☆親子３人で

　家庭の事情で高校卒業後は就職の道を選んだ森篠琳子。
　26歳になった彼女の現在の名前は秋沢琳子。
　４年前に結婚し、その１年後に娘を産んで、いまも寝子島信用金庫に勤務している。
　悠衣と名付けた娘は今年で３歳。
　現在は親子３人でマンションに住んでいる。

　夫の秋沢覚との出会いは寝子祭の時だった。
　大阪弁でしゃべるチャラい男で、正直、苦手だと思った。
（でも不思議と心魅かれるものを感じていたわ）
　あの時の感情は、今の琳子にはわかる。
（まさか夫が私と同じ職場に、同期で入社するなんて）
　秋沢は大卒で採用、琳子は高卒で採用だったが、顔を合わせたときは本当に驚いた。
　それがきっかけで急速に互いの距離が縮まり、結婚ということになった。
　共働きなので経済的な心配もなく、妹の奏子の学費も心配することはなくなった。

　今日は日曜日。
「悠衣、今日はおばあちゃんの家に行くわよ」
　親子３人で自宅からあまり離れていない実家を訪れた。
「こんちはー！」
「ただいま」
「おかえりなさい。こんにちは、覚さん、悠衣ちゃん」
　母と奏子が笑顔で迎えてくれた。
　お金の必要に迫られてはいないが、母は今でも保険外交員として働いている。
　奏子は17歳の寝子高生。
　覚に軽く挨拶すると、悠衣に優しく声をかける。
「悠衣ちゃん、手を洗ったら見せたいものがあるのよー」　
「なーに？　おねえちゃん」
　奏子は悠衣を実の妹のようにかわいがっている。
　お姉さんぶるのが嬉しくてたまらないのだろう。
　そんな妹に苦笑しつつ、琳子は言った。
「お母さん、私も手伝うわよ」
「あら、ゆっくりしてていいのに」
「いいの、久しぶりだから」
　と実家のキッチンに立ち、母と一緒に料理を作り始める。
「ほならパパは悠衣と一緒に行こうかな」
　しばらく奏子と遊んでいたようだが、飽きっぽい３歳児、琳子の元へ戻ってきてテーブルの上に興味を示す。
「こら、つまみ食いしちゃダメ」
　夫が娘と一緒になってつまみ食いしようとしている現場を押さえ、嗜めたりしながら思う。
（この幸せがずっと続けばいいな）

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