8 years after ～8年後の世界～｜リアクション

8 years after ～8年後の世界～

☆ガールズバンド「チェリーソーダ」

　２４歳になった楡宮遠海は、ガールズバンド、「チェリーソーダ」のキーボーディスト兼サブヴォーカルを務めていた。
　寝子高の軽音楽部で活動後、横浜にある大学へ進学し、そこで出会った子たちとバンドを組んだのが始まりだった。
　遠海が作曲と編曲を担当して、歌詞はメインヴォーカルの子が担当している。

　最初の頃は横浜のライブハウス中心に活動したり、ネット配信したりと地道な活動をしていたが、評判を聞いた音楽プロデューサーにオーディションを受けるように勧められた。
　それをきっかけにメジャーデビュー。最初にリリースした曲が運よくドラマの主題歌に使われてそこそこヒットしたのをきっかけに、順調にチャートを上昇し、デビューから1年目にはアルバムを出してこれも好調、そろそろブレイクしそうな兆しが見え始めている。

「こんな大きな舞台でのライブなんて」
　今日は東京の大型のホールでライブで、武道館ほどではないけど、それでもかなり大きなホールでの初めてのライブなので、緊張しまくっている。
「落ち着きなさいよ遠海、らしくないわね……」
「……あなただって声、震えてるよ」
　遠海だけでなくメンバー全員緊張のあまりピリピリしまくってて、マネージャーもドンびいてしまう始末だった。
（でも、逃げるわけにはいかない。今まで練習してきたことをやるだけ）
　開演時刻となった。
　震える足を必死で止めようとしながら舞台へ上がる。
　幕が上がり、スポットライトに照らされると、数えきれない観客のペンライトの海が眼前に広がっていた。
（……綺麗）
　いざとなると、不思議に気持ちが冷静になるのを感じた。
「１、２、３！　♪」　
　曲が始まると、すっと集中状態に入り、自然と心が一つになる。
　プレッシャーなど微塵も感じさせないパワフルな演奏とヴォーカル。
　観客は総立ちになり熱狂し、魅了されていた。
「アンコール！」
　ライブは大成功に終わった。

「おつかれさま～」
　興奮冷めやらぬままのメンバーたちと共に、打ち上げは焼き肉屋で行われた。
　ライブ前のピリピリした雰囲気が嘘のように、皆リラックスしてはしゃいでいる。
「みんな、注文決まった？」
　遠海以外のメンバー皆が頷き、店の人を呼んでオーダーする。
　最後に、遠海が店員にメニューを示した。
「ここから……ここまで全部お願いします」
　メニューのほとんどを指さされ、店の人の笑顔が一瞬引き攣った。
　だがメンバーもマネージャーも、いつものことと笑う。
　8年後もやっぱり変わりなく、遠海は食欲魔人だった。

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